2026/11/06 23:28
















MODMNT — MK JACKET OLIVE / BLACK
その独創的な構造を、現代の素材と自由な発想で再構築した一着。
古いミリタリーウェアには、現代のファッションとは異なる基準で生まれた格好良さがある。身体を守ること、必要な装備を携行すること、限られた空間でも身体を動かせること。そこにあるディテールは、見た目を飾るためではなく、実際の使用環境から導き出されたものだ。だからこそ、何十年という時間が経過しても、その構造には人を惹きつける説得力が残っている。
今回紹介するMODMNTのMK JACKETは、そんな軍用衣料の歴史を背景に持つ一着。デザインの中心にあるのは、英国空軍の寒冷地用フライトジャケットとして知られるRAF MK-3である。短い着丈、特徴的なポケット、収納式フード、後ろ裾のビーバーテール。航空機搭乗員の衣服に見られる独特な造形を取り入れながら、現代の高密度織物と着脱式の袖、別売りのダウンライナーを組み合わせている。
そして今回、特に注目してほしいのが素材の表情だ。コットンとポリエステルを交織した高密度素材VENTONEは、異なる繊維を染め分けることで複雑な色合いを生み出す。OLIVEでは光の当たり方や見る角度によって色の表情が変わる玉虫感が際立ち、BLACKでは穏やかで上品な光沢が印象に残る。同じジャケットでありながら、色によってポケットやフラップの見え方まで変わってくる。この生地と軍用衣料由来の造形が組み合わさったところに、MK JACKETならではの格好良さがある。
LAMPAが惹かれたのは、古い軍服の特徴を残しながら、素材と構造の両面から現代の服として組み立て直しているところだ。なぜこの形になったのかという歴史的な背景と、今このジャケットを着る面白さ。さらに、袖やビーバーテールを動かすことで、服の輪郭そのものが変化する。単に古い軍服のデザインを取り入れたという説明では終わらない、実に見どころの多い一着である。
英国空軍RAF MK-3と飛行服の歴史
RAF MK-3は、Jacket, Aircrew, Cold Weather, Mk.3という名称で知られる英国空軍の寒冷地用ジャケットである。航空機の発達に伴い、搭乗員の装備にもさまざまな工夫が重ねられてきた。飛行服には寒さや風への対応に加え、操縦席という限られた空間で身体を動かすこと、航空機の装備との関係を考えることなど、一般的な衣服とは異なる条件が求められる。
英国の航空服の歴史をさらに遡ると、第一次世界大戦中に英国海軍航空隊のSidney Cottonが考案したSidcot Suitという飛行服がある。当時は開放式の操縦席を持つ航空機も多く、搭乗員は飛行中の厳しい寒さにさらされていた。そうした環境に対応するため、飛行服では衣服の形だけでなく、素材の選択や重ね方も重要な課題となっていった。
この英国航空服の歴史を考えるうえで興味深い素材がVentileである。第二次世界大戦期の英国で開発された高密度綿織物で、綿繊維が水分を含んで膨張することで織り目が詰まり、水の侵入を抑える仕組みを持つ。合成樹脂による防水膜とは異なり、繊維そのものの性質と織物の密度を利用した技術だ。
Sidcot Suitが生まれた時代からVentileが開発された時代まで、英国の航空服では飛行中の厳しい環境に対応するため、衣服の形や素材にさまざまな工夫が重ねられてきた。そこで追求されていたのは、見た目の格好良さではなく、搭乗員が置かれる環境に対して衣服がどう応えるかということだ。そうした実用上の課題から生まれた造形が、今ではミリタリーウェア特有のデザインとして人を惹きつけている。
そして今回のMODMNTは、その歴史を背景に持つRAF MK-3の造形を、現代の高密度織物VENTONEによって新たに表現している。VentileとVENTONEは素材も加工技術も異なるが、織物の構造から衣服の性能を考えるという点には興味深い共通性がある。かつての飛行服が持っていた機能的な形を、今の素材でどう表現するか。MK JACKETのポケットやフード、後ろ裾の構造を見ていくと、その発想が具体的なデザインとして伝わってくる。
ビーバーテールが変える後ろ姿
MK JACKETを象徴するディテールの一つが、ジャケット内側の背面に収納されたビーバーテールである。後ろ裾から布を引き出すことで、通常のジャケットとは異なる形に変化する構造だ。もともと航空機搭乗員の衣服に見られる特殊なディテールを、MODMNTは現代のファッションとして楽しめる仕掛けに発展させている。
特に面白いのが、引き出した布を後ろ側で留めたときの形だ。短い着丈のジャケットに対して、背面だけが長く伸び、どこか燕尾服を思わせる輪郭が現れる。収納しているときには短丈のすっきりとしたジャケット。それがビーバーテールを引き出すだけで、後ろ姿にまったく違った表情が生まれる。この変化が実に格好良い。
このビーバーテールを見ていて思い出したのが、1990年代あたりのKarrimorのサイクルジャケットだ。当時のサイクルジャケットにも、ライディングで前傾姿勢になった際、腰や臀部が露出するのを防ぐために、後ろ身頃を長く設計したものがあった。飛行服と自転車用のジャケット。用途も時代も異なるが、身体の動きや使用環境から、前後で着丈の異なる形が生まれているところが興味深い。
当時のKarrimorが持っていた、後ろだけ長くなった独特なバランスにも魅力を感じ、LAMPAでは機能服をファッションとして楽しんできた。本来は仕事や特定の活動のために生まれた服を、その機能や形の面白さに惹かれて日常の装いに取り入れる。ミリタリーウェアやワークウェアを街着として楽しむのも、根底にあるのは同じ発想だ。僕はこうした、機能から生まれた造形を本来の用途から解放して楽しむことに、昔から服の面白さを感じてきた。
だからこそ、このMK JACKETのビーバーテールには強く惹かれる。後ろ裾を引き出すだけで、短丈のジャケットに思いがけない長さと動きが生まれる。正面から見た印象はそのままに、背面だけが大きく変わる。しかも必要なければ収納できる。1990年代のKarrimorを思い出しながら、今またこうした独特な後ろ姿を楽しめることが嬉しい。
襟元に収納されたフード
もう一つ見逃せないのが、襟元に収納されたフードである。使用しないときには襟元に収め、必要に応じて取り出せる構造となっている。フードを収納すれば首元がすっきりとまとまり、引き出せばジャケット全体の印象も変化する。
短い着丈と立体的なポケットを持つジャケットに、収納式フードという仕掛けが加わる。フードを出したときには首元に新たなボリュームが生まれ、収納すれば襟元の形が前面に出てくる。ビーバーテールと同様に、服の構造そのものを変えることで、異なる表情を楽しめるディテールだ。
高密度素材VENTONEの構造と加工
素材には、コットン62%、ポリエステル38%のVENTONE後染めオックスを使用。経糸に60番双糸のコットン、緯糸にポリエステルを用い、異なる素材を交織して超高密度に織り上げた生地だ。
60番双糸とは、細い60番手の糸を二本撚り合わせたもの。細番手の糸が持つ繊細さを生かしながら、双糸として織物を構成することで、生地の骨格をつくっている。さらに経糸と緯糸で異なる素材を使用し、それぞれを染め分けることで、単一の素材を染めた場合とは異なる複雑な色合いを生み出している。
また、この超高密度の生地には、耐久撥水、ピーチ、BIO、SOFT加工が施されている。ピーチ加工によって表面にはごく細かな毛羽が生まれ、滑らかな肌触りに。高密度に織り上げた生地のしっかりとした骨格を保ちながら、硬さだけが前に出ない柔らかな質感へ仕上げている。加えて透湿性、耐久撥水、UVカットといった機能も備えている。
この素材選びには、かなり意味がある。MK JACKETには立体的なポケットやフラップ、着脱式の袖、そして後ろ裾のビーバーテールなど、服の輪郭を特徴づける構造がいくつもある。こうしたジャケットでは、生地が柔らかすぎるとディテールの輪郭が曖昧になりやすく、反対に硬さばかりを求めれば、服全体が重々しく見えてしまう。
VENTONEは高密度に織り上げることで生地の骨格をつくりながら、ピーチ加工やSOFT加工によって表面の感触を整えている。そのため、フラップやポケットの立体感を生かしつつ、軍用衣料特有の力強いデザインを必要以上に硬く見せない。実際にこのジャケットを見ると、ポケットの重なりや身頃の造形がしっかりと表れながら、全体にはどこか柔らかな雰囲気がある。
そして、この生地の魅力が最も分かりやすく現れているのが、OLIVEとBLACKそれぞれの色の表情だ。高密度に織り上げた生地の骨格や柔らかな表面感は共通しながら、光を受けたときの見え方には明確な違いがある。
OLIVEに現れる独特な玉虫感
OLIVEで特に目を引くのが、光の当たり方や見る角度によって変化する独特な玉虫感だ。コットンとポリエステルという異なる繊維を交織し、染め分けることで生まれる複雑な色の表情が、このカラーでは実に魅力的に現れている。
正面から見たときの色合いと、少し角度を変えたときの色合い。光が当たる部分と影になる部分。その違いによって、同じOLIVEの中にも奥行きが生まれる。特にMK JACKETは、ポケットやフラップ、身頃の切り替えなど、生地の面がさまざまな方向を向く構造になっている。そのため、平面的な生地を見ているとき以上に、玉虫感がジャケット全体の表情として現れてくる。
ここが実に面白い。もともとRAF MK-3を背景に持つ、機能的で力強い造形のジャケットである。そこにVENTONE特有の玉虫感が加わることで、軍用衣料の無骨なデザインに独特な色気が生まれる。ポケットやフラップの形そのものは変わらないのに、生地の色が光によって変化することで、ディテールの見え方まで違ってくる。
さらに、表面にはピーチ加工やSOFT加工による柔らかな質感がある。高密度に織り上げた生地の骨格と、穏やかな表面感。そして見る角度によって変化する玉虫感。軍用衣料を出発点とした造形と、現代の繊維技術から生まれた複雑な色の表情が組み合わさることで、OLIVEは単なるミリタリーカラーのジャケットでは終わらない、独特な格好良さを備えている。
BLACKに宿る上品な光沢
一方のBLACKでは、VENTONEの持つ上品な光沢がジャケット全体の印象を特徴づけている。光を受けた部分には穏やかな艶が現れ、影になる部分との間に自然な濃淡が生まれる。黒一色でありながら、生地表面には単調ではない豊かな表情がある。
この光沢が特に生きてくるのが、ポケットやフラップの重なりだ。MK JACKETには軍用衣料由来のディテールが数多く取り入れられているが、BLACKでは光が当たる面と影になる面の違いによって、その構造が自然に浮かび上がる。色の変化を強く主張するのではなく、穏やかな艶と陰影によってジャケットの造形を引き立てている。
また、VENTONEの柔らかな表面感も、このBLACKの印象を決める重要な要素だ。高密度織物らしいしっかりとした骨格を持ちながら、ピーチ加工やSOFT加工によって生地の表情が整えられている。そこに上品な光沢が加わることで、ミリタリーウェアらしい力強さを残しつつ、全体が落ち着いた雰囲気にまとまっている。
特に魅力を感じるのは、これだけ特徴的なディテールを持ちながら、BLACKではその一つひとつが自然に馴染んで見えるところだ。立体的なポケット、収納式フード、短い着丈、ビーバーテール。個性の強い構造が集まっているにもかかわらず、VENTONEの上品な光沢によってジャケット全体にまとまりが生まれている。OLIVEが玉虫感によって色の奥行きを楽しませてくれるなら、BLACKは穏やかな光沢によって服の造形そのものを引き立てるカラーだ。
着脱式の袖とダウンライナー
MODMNTのMK JACKETが単なるRAF MK-3の復刻ではないことを明確に示しているのが、袖の着脱構造である。袖を取り外すことで、ジャケットからベストへと形態を変えられる。さらに別売りのLINER DOWNを装着することもでき、外側の形状と内側の保温構造をそれぞれ変更できる設計となっている。
袖を取り外せば、肩から腕にかけての輪郭が変わり、身頃のボリュームやポケットの配置がよりはっきりと見える。ジャケットとして着たときには袖までつながる一体感があり、ベストにすると身頃そのものの造形が前面に出てくる。同じ服でありながら、袖の有無によって全体の印象が大きく変化するところが面白い。
また、別売りのLINER DOWNとの組み合わせはもちろん、LAMPAでは手持ちのダウンジャケットを重ねる楽しみ方も提案したい。特に着丈の異なるダウンを内側に合わせれば、MK JACKETの短い裾からダウンの裾がのぞき、二着の丈の違いがそのまま装いの面白さにつながる。専用ライナーという選択肢を備えながら、自分の持っている服を生かして着こなしを考えられるところも魅力だ。
こうした重ね着を考えるときに重要なのが、MK JACKETの身幅と着丈のバランスだ。短めの着丈に対して身頃にはゆとりがあり、肩周りにも余裕を持たせた設計となっている。飛行服を思わせるコンパクトな着丈と現代的な身幅の組み合わせによって、内側にダウンを重ねたときにも上半身にボリュームが生まれ、そのボリュームと短い着丈との対比がはっきりする。
袖を外してベストにすれば、内側に着る服の袖や肩周りが見えるため、重ねる服によって印象も変わってくる。ジャケットとして着たときの一体感と、ベストにしたときに生まれる重ね着の面白さ。袖を着脱するという構造が、服の見え方そのものを変えてくれるところに、この設計の魅力がある。
アメカジからスラックス、テクニカルウェアまで
このMK JACKETの魅力は、合わせる服の幅広さにもある。RAF MK-3を背景に持ちながらも、無骨になりすぎないデザインとVENTONEの柔らかな生地感によって、一般的な軍用ジャケットとは異なる見え方を持っている。OLIVEでは玉虫感が独特な表情を生み、BLACKでは上品な光沢が立体的なディテールを落ち着いた印象にまとめている。この素材とデザインのバランスが、異なる方向性の服との組み合わせを面白くしている。
例えばA VONTADEやORDINARY FITSのデニム、チノパン、カーゴパンツ。アメリカンカジュアルの要素を持つこうした服と合わせれば、MK JACKETのミリタリー由来の造形が自然につながる。デニムの粗さやチノの素朴な質感、カーゴパンツの機能的なディテールに対して、VENTONEの滑らかな表面感が素材の違いを生み、同じカジュアルな方向性の服を組み合わせても、全体が単調になりにくい。
一方で、STILL BY HANDのスラックスを思わせる綺麗なシルエットのパンツとも相性がいい。無骨すぎないデザインとVENTONEの生地感が、軍用衣料を背景に持つジャケットと、スラックスの整った輪郭や落ち着いた素材感を自然につないでくれる。特にBLACKでは、穏やかな光沢がパンツの端正な印象とも調和し、立体的なポケットやフラップが程良いアクセントとして生きてくる。
さらにMOUT RECON TAILORやCCPといった、現代的な素材や構造を追求するテクニカルウェアとの組み合わせも面白い。軍用衣料を出発点とするMK JACKETと、現代の機能素材や立体的なパターンを用いた服。VENTONEの高密度な織りと機能性が、そうした服の素材感ともつながり、異なる時代の機能服を一つの装いの中で楽しめる。
そして、こうした着こなしを考えるときにも、ビーバーテールの存在が効いてくる。後ろ裾を収納すれば短丈のジャケットとして全体をまとめられ、引き出せば背面に独特な長さが生まれる。合わせる服を変えるだけでなく、ジャケットそのものの形を変えることで、装いのバランスまで動かせる。これは実際に服を着る楽しさに直結する、非常に魅力的な仕掛けだ。
機能から生まれた造形を楽しむ
このMK JACKETを見て改めて感じるのは、古い軍用衣料には、まだまだ現代のファッションを面白くする要素が残されているということだ。RAF MK-3の独特な構造を出発点に、袖を取り外せる仕掛けを加え、VENTONEという現代の素材で仕立てる。さらにOLIVEでは玉虫感、BLACKでは上品な光沢が、それぞれ異なる格好良さを生み出している。歴史あるデザインを、今の服としてどう楽しむか。その答えが、このジャケットの細部に表れている。
特に印象に残るのは、ビーバーテールを引き出したときの後ろ姿だ。正面から見れば、短い着丈と立体的なポケットが特徴的なミリタリージャケット。それが後ろに回ると、裾から伸びた布によって、思いがけない輪郭が現れる。かつての機能服に由来する構造が、今は純粋にファッションとして人を惹きつける。こういう服に出会うと、長年洋服を見続けていても、まだ面白いものがあると感じる。
LAMPAがこのMK JACKETをセレクトしたのは、RAF MK-3の機能的な造形を、現代の素材と独創的な構造によって新しい服へと発展させているからです。OLIVEの玉虫感、BLACKの上品な光沢、袖を外したときの変化。その一つひとつに見どころがあります。そして何より、ビーバーテールを引き出したときに現れる、あの独特な後ろ姿。古い飛行服に由来する構造を、今は自分の好きな服と組み合わせ、自由なファッションとして楽しめます。短い着丈のジャケットから後ろ裾だけが伸びる、あの何とも言えない格好良さを、ぜひ実際に着て楽しんでほしい一着です。
