2026/11/03 01:02












BARNSTORMER PRESSED WORKERS 1510P
硫化染めのキャンバスに、職人の技術と情熱を注ぎ込んだ一本。
ワークパンツとスラックス。そもそも生まれた目的も、求められてきた役割も違う。前者は働く人々の身体を守り、日々の仕事に耐えるための服。後者は身体の曲線を考え、立体的な裁断と仕立てによって美しい輪郭をつくり出す服だ。どちらにも長い歴史があり、それぞれの用途に応じて発達してきた技術がある。
服を長く見続けていると、面白いと感じるのは、そうした異なる世界の技術がひとつの服の中で出会った時だ。丈夫さを求めて発達した素材を、身体の形を美しく見せるための技術で仕立てる。合理性だけを考えれば、もっと簡単な方法もあるだろう。それでも手間を惜しまないことで、従来のワークパンツとは違う魅力が生まれる。
BARNSTORMERのPRESSED WORKERSは、まさにそこが面白い。フレンチワークパンツの構造を取り入れながら、使用するのは硫化染めとストーンバイオ加工を施したコットンキャンバス。そして、その生地を仕立てるのは、BARNSTORMERが長年培ってきたスラックスづくりの技術を持つ工場である。
LAMPAでは、このパンツを単に加工の入ったワークパンツとして紹介したくない。生地には仕事着らしい粗さを求めながら、仕立てにはスラックスの技術を持ち込む。素材と製法が異なる方向を向いているからこそ、一本のパンツとして完成した時に面白さが生まれる。そして何より、実際に穿けばその意味が分かる。無骨なキャンバスから想像する以上に、腰回りから脚にかけての輪郭が美しい。この見た目と実際に穿いた時の驚きが、LAMPAがPRESSED WORKERSを選んだ理由だ。
仕事着を支えてきたコットンキャンバス
まず注目したいのが、コットン100%の平織りキャンバスという素材だ。キャンバスは、経糸と緯糸を交互に交差させる平織りを基本とした生地で、比較的太い糸を使い、しっかりと織り上げるものが多い。糸が縦横に交差する素朴な表面と、生地そのものが持つ張りが特徴で、古くから作業服や帆布、袋物など、丈夫さを必要とする製品に用いられてきた。
一般的なチノパンに多く使われるチノクロスは、斜めの綾目を持つ綾織りが主流で、比較的滑らかな表面をつくる。一方、キャンバスは平織りならではの縦横の糸の交差が表面に現れ、より素朴で骨太な質感を持つ。同じコットン100%でも、織り組織が違えば生地の表情は変わり、それがパンツ全体の印象にもつながる。
今回使用されているキャンバスは、厚過ぎず薄過ぎない程良い厚みの生地だ。キャンバスという言葉から連想する極端に厚く硬い帆布とは異なり、ワークパンツらしいしっかりとした質感を持ちながら、日常的に穿くパンツとして取り入れやすい厚さに仕上がっている。この厚みだからこそ、腰回りに適度な膨らみをつくりながら、脚全体が過剰に張り出すことなく自然な輪郭に収まっている。
このキャンバスという素材は、ワークウェアの歴史とも深い関係がある。アメリカではダックと呼ばれる丈夫なコットンキャンバスが作業用のジャケットやパンツに採用され、フランスでもモールスキンやコットンツイルとともに、用途に応じたさまざまな綿織物が仕事着を支えてきた。フレンチワークというとモールスキンの印象が強いが、実際の仕事着はひとつの素材だけで成立していたわけではない。職業や用途に合わせて生地を選び、裁断やポケットの配置を工夫することで、それぞれの仕事に適した服がつくられてきた。
PRESSED WORKERSにキャンバスを採用する意味は、その歴史的な背景だけではない。平織りキャンバスが持つ適度な張りは、腰回りのプリーツや脚の輪郭を支えるうえでも意味を持つ。柔らかな生地であれば身体に沿って落ちやすい部分も、張りのある生地なら一定の膨らみを保ちやすい。腰から太腿にかけて生まれるゆとりが、そのまま身体の線を拾うのではなく、パンツ自体の立体的な形として現れる。ワークウェアらしい素材の質感と、スラックスの仕立てによる輪郭。その両方を成立させるための素材選びとしても興味深い。
硫化染めとストーンバイオ加工
そして、このキャンバスに独特の表情を与えているのが、硫化染めとストーンバイオ加工だ。硫化染めとは、硫黄を含む染料を使用する染色技術で、ブラックやブラウン、オリーブなどの深い色を表現する際にも用いられてきた。染料を還元によって水に溶ける状態へ変化させ、綿繊維に吸収させた後、酸化によって再び水に溶けにくい状態へ戻す。この工程によって色を定着させるのが、硫化染料の基本的な仕組みである。
硫化染めの面白さは、染色した生地の表面に摩擦や洗い加工を加えることで、色の濃淡を表現できるところにある。均一に染め上げられた生地も、表面の染料を含んだ繊維が摩耗すれば、その部分の色が薄くなる。新品の生地を均一な色のまま仕上げるのではなく、着用を重ねた仕事着に見られる擦れや色の変化を、加工によって表現することができる。
そこへ組み合わせているのがストーンバイオ加工だ。一般的にストーンウォッシュは、軽石などを衣服と一緒に洗浄機へ投入し、回転による摩擦で生地表面にアタリをつける加工。一方、バイオウォッシュはセルラーゼと呼ばれる酵素を利用し、綿を構成するセルロース繊維の表面に作用させることで、毛羽や表面の繊維を部分的に取り除く技術である。
この二つを組み合わせることで、生地全体の風合いを変化させながら、縫い目やポケットの端、生地が重なる部分などに摩耗による濃淡を生み出すことができる。硫化染めによって与えられた色を、ストーンバイオ加工によって部分的に崩していく。染色によって色をつくり、その後の加工によって着込んだ表情をつくるという二段階の考え方だ。
ここで重要なのは、単に古着らしく見せるための加工ではないということだ。キャンバスが持つ素朴な織り目に、硫化染めの色とストーンバイオ加工による濃淡が重なることで、生地そのものの表情がよりはっきりと現れる。さらに加工によって新品の生地特有の硬さが和らぎ、ワークパンツらしい質感と、穿き始めから身体に馴染みやすい風合いを目指している。
そして、この加工済みのキャンバスをスラックスの考え方で仕立てるところが、PRESSED WORKERSの面白さだ。マッカーサ2では、コールドマーセ加工を施したウエポンの光沢と張りを生かし、軍服を思わせる端正な輪郭をつくっていた。一方、PRESSED WORKERSでは、生地の色をあえて崩し、着込んだ仕事着を思わせる表情を求めている。同じBARNSTORMERでありながら、素材の仕上げ方は対照的。その違いからも、ブランドのものづくりの幅が見えてくる。
パターンだけでは完成しないシルエット
そして、ここからがBARNSTORMERというブランドの本領だ。一般的なカジュアルパンツと、仕立て屋の技術を取り入れたスラックス。その違いは、単に縫製が丁寧だとか、内側の始末が綺麗だという話ではない。最も注目したいのは、パンツのシルエットをどのようにつくり上げていくかという考え方である。
一般的な量産パンツでは、パターンによって設計された各パーツを裁断し、縫い合わせることで形をつくり、必要なプレスを加えて仕上げていく。優れたパターン設計と正確な縫製によって、美しいシルエットをつくることは十分に可能だ。しかし、人間の身体は平面ではない。腰のくびれ、ヒップの丸み、太腿の前後の膨らみ、膝から裾にかけての曲線。こうした複雑な立体をさらに追い込むために、伝統的なスラックスの仕立てでは、パターンや縫製に加えて生地そのものを成形する技術が発達してきた。
そこで重要になるのが、仕立て屋が培ってきたアイロンワークの技術だ。本格的なスラックスづくりでは、裁断した生地をただ縫い合わせるのではなく、アイロンの熱や蒸気を利用して、生地そのものの形を変えていく。いわゆる、くせ取りと呼ばれる工程である。必要な部分を伸ばし、余分な分量を縮めて収めることで、平面の生地に立体的な膨らみや曲線を与えていく。
つまり、パターンは立体をつくるための設計図であり、その設計を実際の生地でどこまで表現できるかは、縫製やプレスの技術にも左右される。単純に細く裁断すれば、確かにすっきりとしたパンツにはなる。しかし、それでは身体に必要なゆとりまで削ってしまうことがある。仕立て屋の技術が目指すのは、必要な部分には分量を残しながら、外側に余計な膨らみを出さないこと。すっきりとした見た目と、窮屈さを感じさせない穿き心地を両立させるために、設計した形をさらに追い込んでいく。
BARNSTORMERの代表作であるマッカーサ2では、脇のカーブを強めに設計し、プレスによって生地の膨らみを中央へと移動させる技術が取り入れられている。これは、パターンとアイロンワークを組み合わせたスラックスの仕立てを示す具体例だ。型紙の段階から、その後に行われるアイロンワークを計算に入れている。裁断、縫製、プレスを別々の作業として考えるのではなく、すべてを組み合わせることで最終的なシルエットを完成させていく。
PRESSED WORKERSも、BARNSTORMERが培ってきたスラックスづくりの考え方を取り入れた一本だ。今回の素材は、硫化染めとストーンバイオ加工を施したキャンバス。滑らかなウールのスラックス生地とは、張りも表面の質感も異なる。コットンはウールと同じように熱や蒸気で成形できる素材ではなく、生地の性質を理解したうえで、裁断や縫製、プレスの方法を考える必要がある。素材が変われば、その生地をどう扱うかという技術も問われる。長年スラックスをつくり続けてきたBARNSTORMERのものづくりを考えるうえで、こうした素材と仕立ての関係は欠かせない。
表から見えない仕立て屋の仕事
その考え方は、穿いてしまえば見えなくなる内側の構造にも表れている。フロントには持ち出しと天狗を採用し、前開きの上端を一か所で留めるだけでなく、内側にも重なりを持たせることで腰回りを安定させている。さらにウエストの内側にはマーベルトを配し、腰裏を整えながらウエスト帯を支えている。縫い代や芯地が身体に直接当たるのを避け、内側の収まりを整えるための仕様だ。外からは見えない部分だが、穿いた時の腰回りの安定感や、正面から見た輪郭にも関わっている。
前立ての内側には、股部分を補強するシックの役割を持つ構造も取り入れられている。BARNSTORMERでは、前立て内側の天狗を内股の十字部分まで延長し、補強と裂け防止の役割を持たせている。前後左右の身頃が合わさる股部分は、歩行や着座によって負荷が集中しやすい場所だ。その部分を内側から補強することで、表から見えるシルエットを変えることなく、パンツの構造を支えている。
その補強部分の先端は剣先型に整えられている。使用するのはポケット袋布と同じスレキで、補強という役割を果たしながら、表地を必要以上に使用しない。単に手間をかけるのではなく、どこに技術を注ぎ、どこで生地の無駄を省くか。こうした合理的な素材の使い分けにも、昔ながらの仕立て屋の知恵が感じられる。
後ろ中心の尻ぐりにも、見逃せない工夫がある。ウエストに近い上部では縫い代を広く残し、股下へ向かうにつれて段々と細くしている。上部に残された縫い代は、後からウエスト寸法を調整するための余地であると同時に、生地が重なることでヒップ上部の形を整える役割も持つ。一方、カーブの強い股ぐり付近では縫い代を細くすることで、内側に余分な生地が溜まるのを抑え、表面に不要なシワが出ることを防いでいる。
こうした縫い代の取り方は、完成したパンツを外側から眺めるだけでは分からない。しかし、腰からヒップにかけての収まりや、後ろ姿の輪郭を整えるうえで重要な意味を持っている。表に見えるデザインだけでなく、内側の生地の重なり方まで考える。スラックス工場の技術とは、まさにこうした部分に表れるものだ。
後ろ身頃にはV字型の切り替え、内股には三角形のマチが設けられている。これは動きやすさを高めるための一般的なガゼットとは異なり、生地幅に合わせて裁断するために、仕立て屋が用いてきた接ぎの工夫だ。一枚の生地から無理にすべての形を取ろうとするのではなく、必要な部分を別布で接ぐことで、限られた生地幅の中でも意図したパターンを成立させる。
こうした合理的な工夫は、見た目を飾るためのディテールとは違う。生地を無駄なく使いながら、必要な形をつくる。後ろ身頃のV字型の切り替えも、内股の三角形のマチも、その考え方に基づく構造である。仕事着としての合理性を感じさせながら、実際にはスラックスの仕立て屋が培ってきた知恵が息づいている。
丈夫なキャンバスを使ったパンツなら、もっと効率の良い方法で製作することもできるだろう。それでもBARNSTORMERは、長年培ってきたスラックスの技術をワークパンツにも持ち込んでいる。見た目の無骨さを残しながら、穿いた時の形を整える。そのために、表からは見えない内側の構造にまで手間をかける。このパンツを裏返して見た時に初めて分かる仕事の多さが、表側の美しい輪郭につながっている。
穿いた瞬間に分かる違い
そして、実際に穿いてみると、その違いがはっきりと分かる。一般的なカジュアルパンツとは比較にならないほど、シルエットが美しい。腰回りから脚にかけて驚くほどすっきりと見えるのに、窮屈さを感じさせない。ここまで内側の構造や仕立てを細かく見てきたが、最終的に一番説得力があるのは、この穿いた時の姿だ。
ここで重要なのは、スラックスに似せたカジュアルパンツではないということだ。硫化染めとストーンバイオ加工を施した無骨なキャンバスを使いながら、穿いた時の輪郭は紛れもなくスラックス。単にスラックスらしく見えるのではなく、しっかりとスラックスとして成立している。必要なゆとりを残しながら、余計な膨らみを表へ出さない。そのシルエットを見れば、なぜBARNSTORMERがスラックス工場でものづくりを続けているのかが見えてくる。
フレンチワークとスラックスの交差
デザインの背景にあるのは、フランスのワークウェアだ。フランスでは19世紀の産業化とともに職業ごとの作業服が発達し、モールスキンやコットンツイルなどを使った独自のワークパンツがつくられてきた。作業に必要なゆとりを持たせた腰回りや、仕事道具を収納するためのポケットなど、働く人々の動作や用途を考えた構造が発達していった。PRESSED WORKERSも、そうしたフレンチワークの考え方を感じさせるディテールを持っている。
正面にはワンプリーツを設け、腰回りにゆとりを確保しながら、トラウザーズらしい整った輪郭をつくっている。プリーツによって生まれる分量が太腿にかけての膨らみにつながり、そこから裾へ向かって緩やかに細くなる。テーパードは強過ぎず、全体としては自然な太さを保ったシルエットだ。腰回りには余裕がありながら、脚全体の輪郭は整理されている。適度な厚みのキャンバスがその形を支えることで、身体にまとわりつくのではなく、パンツ自体の立体感が見えてくる。
一方、背面にはV字型の切り替えとパッチポケットを採用。腰の後ろに生まれる切り替えの線と、外側に縫い付けられたパッチポケットによって、正面とは異なるワークパンツらしい表情が現れる。装飾を加えたのではない。仕事着と仕立て屋、それぞれの世界から生まれた構造そのものが、後ろ姿の特徴になっている。
正面ではプリーツから裾へと続く縦の線が際立ち、背面ではV字型の切り替えとパッチポケットが腰回りに特徴を与える。前から見ればスラックスの仕立てが感じられ、後ろへ回ればフレンチワークを思わせる構造が目に入る。同じ一本のパンツでありながら、見る方向によって印象が変わる。この前後の違いも、PRESSED WORKERSの面白さだ。
ここまで見てくると、PRESSED WORKERSという名前まで、このパンツそのものに思えてくる。プレスによって美しい形をつくり上げてきたスラックスの世界。丈夫な素材を使い、働くための合理性を積み重ねてきたワークウェアの世界。その二つを名前だけで組み合わせたのではない。硫化染めとストーンバイオ加工を施したキャンバス、ワンプリーツ、V字型の切り替え、パッチポケット、そして表からは見えない持ち出し、天狗、マーベルト、補強布、縫い代の処理まで、本当に二つの世界を一本のパンツの中で交差させている。ワークパンツの格好良さを残したまま、本気でスラックスをつくる。その考え方が、細部の構造から穿いた時のシルエットまで一貫している。
僕がこのPRESSED WORKERSを選んだ最大の理由は、実際に穿いた時のシルエットの美しさです。仕事着の素材を使い、フレンチワークの構造を取り入れ、仕立て屋が培ってきた技術を注ぎ込む。その積み重ねが、穿いた瞬間に納得できる一本のパンツになっています。無骨なキャンバスの表情と、すっきりと美しい脚の輪郭。その両方が同じ一本の中に存在しているところに、BARNSTORMER PRESSED WORKERS 1510Pの魅力があります。
