2026/11/01 17:24














STILL BY HAND NYLON HOODED PARKA BL03263
その緻密な足し引きこそ、STILL BY HANDの真骨頂。
服を長く見続けていると、デザインを加えることよりも、どこで止めるかを判断することの方が難しいと感じる。特徴的なディテールをひとつ加えれば、それだけ服の個性は強くなる。さらにもうひとつ加えれば、もっと分かりやすくなる。けれど、それを続けていけば、最後にはディテールばかりが目に入る服になる。素材にも面白さがあり、形にも特徴があり、細部にも工夫がある。それでも一着の洋服として見た時には、すべてが自然に収まっている。その加減が実に難しい。
STILL BY HANDは、そんな難しいことを何気なくやってしまうブランドだと僕は思う。決して奇抜な服ではない。むしろ最初に見た時には、ごく普通の洋服に見えることさえある。それなのに、近づいて見て、触って、実際の形を追っていくと、少しずつ違和感が出てくる。なぜ、この首元はこんな形になるのか。なぜ、この袖には独特な膨らみがあるのか。なぜ、後ろから見ても間が抜けないのか。ひとつひとつを見れば小さな工夫なのに、それが積み重なることで、他ではあまり見ない一着になっている。
今回のNYLON HOODED PARKA BL03263は、まさにそこが面白い。デザインソースはミリタリーのSNOW PARKA。雪上での迷彩を目的に、防寒装備の上から着用するために作られたオーバーガーメントであり、大きなフードやゆとりのあるシルエットも、元を辿ればその用途から生まれたものだ。STILL BY HANDは、その大らかな量感を残しながら、素材、首元、袖、背面の設計を細かく組み直している。SNOW PARKAをそのまま現代化したのではない。その特徴的なボリュームを一度受け止め、自分たちの服として再び形にしている。
シボ感のあるナイロン
まず良いのが、生地の選択だ。使用しているのは、ややシボ感のあるナイロン素材。撥水性、防風性といった機能を備えながら適度なハリを持ち、表面は一般的なナイロンに見られるツルッと均一な質感ではなく、細かな凹凸を感じさせるナチュラルな仕上がりになっている。
このシボ感が実にいい。表面に細かな凹凸があることで光の反射が均一にならず、生地が動き、重なり、皺が入るたびに微妙な陰影が生まれる。単色のナイロンなのに、表情が一枚では終わらない。滑らかなナイロンを選べば、もっとスポーティーな方向へ振れただろうし、ヴィンテージ感の強い素材を選べば、今度はミリタリーの匂いが前へ出ただろう。そのどちらにも寄せ切らないところが、この服には合っている。
そして色も良い。真っ白ではなく、ほんの少しアイボリーがかった柔らかな色合い。雪上での迷彩を目的としたSNOW PARKAの白をどこかに残しながら、その白をそのまま持ってこない。デザインソースを形だけで語るのではなく、色にも僅かに痕跡を残している。分かりやすくミリタリーへ寄せるのではなく、元になった服の存在を感じさせる程度に留める。この距離感も上手い。
さらに重要なのが、生地に適度なハリがあることだ。このハリが、ボリュームのあるフードや首元、袖の立体的な形を支えている。柔らかな生地なら、同じパターンでもフードは背中へ落ち、袖の膨らみも違って見えただろう。シボ感による奥行き、SNOW PARKAを思わせるアイボリーがかった色、そして形を支える適度なハリ。ここでは素材が単なる表地ではなく、デザインそのものを成立させる役割を担っている。
首元で変わる大きなフード
デザインで最初に目へ入るのは、やはりSNOW PARKAを思わせるボリュームのあるフードだ。元々のミリタリーウェアが持つ大らかな形を残しながら、首元にはボタンで留める仕様を加えている。フードの生地を首元で重ね、ボタンを留めることで、首の周囲に立体的な形が生まれる。そこへ先ほどのハリのあるナイロンが効き、大きなフードが単純に背中へ垂れ下がるのではなく、首元そのものがひとつの造形になる。
面白いのは、ボタンを外した時だ。閉じていた首元が開き、大きなフードが今度は襟のように広がる。留めれば首元へ量感が集まり、外せばその量感が左右へ逃げる。同じフードなのに、ボタンひとつで上半身の輪郭まで変わって見える。大きなフードを付けて終わらず、その生地の分量をどう見せるかまで考えられている。
タックから生まれる袖の立体
そして僕がこの服を見ていて上手いと思うのが、袖の作りだ。袖幅そのものはやや太めに設定されている。SNOW PARKAが持つ大らかな量感を考えれば、この太さには意味がある。けれど、単純に袖幅だけを広げれば、生地が余り、平面的に落ちるだけになりやすい。そこでタックを取り、生地の分量に変化をつけることで、袖そのものに立体的な膨らみを作っている。
さらに、その量感を袖口のスナップボタンで収める。ここがいい。太く作ったものを、そのまま太く終わらせない。袖の途中にはしっかりとボリュームを残しながら、最後は手首へ向かって収束させる。だから正面だけでなく、横から見た時にも袖の輪郭が出る。大きなフードと太い袖という、かなり量感のある要素を持ちながら、服全体がただ大きく見えない理由のひとつがここにある。
後ろ姿を止めるヨーク
前と横だけでは終わらない。背面には、コートを思わせるヨークの切り替えが入る。こうしたゆとりのあるパーカは、前から見ればフードやポケット、袖などに変化を作れても、後ろから見た途端に大きな一枚の生地が広がり、背中だけが単調に見えることがある。そこで横方向にヨークの切り替えを入れることで、広い背面を一度そこで止めている。
しかも、このヨークを強い装飾にはしていない。あくまで背中に一本の構造を加え、後ろ姿へ静かな変化を作る程度に抑えている。前から見れば大きなフード、横から見ればタックによる袖の膨らみ、後ろへ回ればヨークの切り替えが見える。一方向だけで成立させるのではなく、服を一周した時に、それぞれ違う見どころが残されている。
足すことより難しい、止めること
ここまで見ると、このNYLON HOODED PARKAが面白い理由がよく分かる。SNOW PARKAという存在感の強いミリタリーウェアを出発点にしながら、その特徴をそのまま並べてはいない。大きなフードとゆとりのある量感は残す。首元にはボタンによる独自の構造を加える。袖にはタックを取り、袖口でその量感を収める。背中にはコートを思わせるヨークを入れる。そして全体を、シボ感と適度なハリを持つアイボリーがかったナイロンでまとめる。
どれかひとつをもっと強く見せることも出来たはずだ。フードをさらに誇張することも、袖をもっと太くすることも、背中のヨークをもっと目立たせることも出来る。けれど、STILL BY HANDはそこで止めている。すべてに少しずつ特徴を持たせながら、どれかひとつだけを主役にしない。だから最初に見た時には自然なのに、見れば見るほど普通ではないことに気付く。
ありそうで、ない。出来そうで、出来ない。僕がSTILL BY HANDの服を面白いと思うのは、まさにこういうところだ。新しい何かを大きく付け足すのではなく、素材の表情、生地の分量、タックの位置、ボタンを留めた時の首元、袖口で量感が止まる位置、背中を横切るヨークまでを細かく積み重ね、最後には何事もなかったかのように一着の服へ収めてしまう。
ボリュームのあるフードが首元で立ち上がり、タックによって形作られた袖が手首へ向かって収まり、背中のヨークが後ろ姿を引き締めます。そこへシボ感と適度なハリを持つアイボリーがかったナイロンが重なり、SNOW PARKAを出発点としながら、STILL BY HANDにしか作れない形へ仕上がっています。ひとつひとつは決して大げさではないのに、全部が揃った時に他とは違う。その緻密な足し引きと服作りの上手さを、細部までじっくり見てほしいNYLON HOODED PARKA BL03263です。
