2026/10/30 17:47

30/70 TRENTA SETTANTA
その技術力は、世界トップクラス。
今回、LAMPAに新しく入荷した30/70 TRENTA SETTANTA。
商品の紹介をする前に、まずはこのブランドを生み出した第一ニットという工場について紹介したい。
というのも、この工場がとにかく凄い。
日本には世界に誇れる繊維産地や製造技術が数多く存在するが、第一ニットはその中でも、極めて高度なハイゲージニットの製造技術を持つファクトリー。
長年にわたり世界の名だたるメゾンブランドの製造も手掛け、その技術力を磨き続けてきた。
今回、この工場について調べていくと、なぜこれほどシンプルなニットに価値があるのか、その理由が少しずつ見えてきた。
1887年から続く、第一ニットの歴史
新潟県見附市に拠点を構える第一ニット。
そのルーツは1887年、明治20年まで遡る。
もともとは生糸を扱う糸商として始まり、時代の変化とともに織物からニット製造へと事業を発展。
1969年にはフルファッション編機を導入し、ニット製造における高度な成型技術を蓄積してきた。
糸を扱うところから始まった会社が、長い年月をかけて、その糸をいかに美しい服へと仕上げるかを追求してきた歴史。
単に古い会社というだけではない。
時代に合わせて設備を更新しながら、古くから受け継いできた技術も維持し続けている。
その積み重ねが、現在の第一ニットの技術力につながっている。
ジョンスメドレーにも通じる、フルファッション製法
第一ニットの技術を語るうえで欠かせないのが、フルファッション製法。
英国の老舗ニットブランド、JOHN SMEDLEY(ジョンスメドレー)も長年採用してきた、伝統的なニットの成型技術。
フルファッションとは、編み目を増やしたり減らしたりしながら、身頃や袖などの各パーツを必要な形に編み上げていく製法。
一般的な布帛の洋服は、織り上がった生地を型紙に合わせて裁断し、それぞれのパーツを縫い合わせることで形を作る。
一方、フルファッションでは、編み上げる段階から服の形を作っていく。
つまり、編み目そのものが服の設計に関わっているということ。
しかも、ニットは伸縮する素材。
身体の形に合わせて編み目を増減させるだけでなく、糸の張力、編み目の密度、各パーツの寸法などを精密に管理する必要がある。
一見すると何の変哲もないセーターでも、その形を作るために高度な技術が使われている。
これがフルファッションという製法の面白さ。
世界的にも希少な30ゲージの編機
そして、第一ニットの技術力を象徴するのが、ドイツ・シェラー社製30ゲージのフルファッション編機。
ゲージとは、編機の針の密度を表す数字。
数字が大きくなるほど細かな編み目を作ることができ、30ゲージともなれば、極めて繊細な糸を精密に編み上げる技術が求められる。
このシェラー社製の特殊な編機は、世界的にも極めて希少な存在。
第一ニットは、その編機をなんと5台も保有。
日本国内で現在も稼働させているのは、第一ニットだけという。
しかも、この編機は全長10m以上にも及ぶ巨大な機械。
なぜ、これほど横に長いのか。
それは、一台の機械に複数の編成区画が横一列に並び、共通の機構で動くことによって、複数枚の編地を同時に編み上げる構造だから。
つまり、一枚の巨大な生地を編んでいるわけではない。
長大な機械の中で、身頃や袖などのパーツを複数枚、同時に編み上げている。
その数は、一度に8枚から12枚にも及ぶ。
10mを超える巨大な編機で、複数枚の編地を同時に編み上げる。
その圧倒的な規模と、30ゲージという極めて繊細な編み目の精度。
この両方を成立させているのが、第一ニットの技術力。
しかも、この編機は精密な機構を持つ特殊な設備。
その状態を維持し、繊細な糸を安定して編み上げるためには、長年培われてきた調整技術と経験が必要になる。
ここで重要なのは、希少な機械を所有していることだけではない。
その機械を今も動かし、美しいニットを製品として完成させられること。
古い設備を保存することと、実際の製造現場で使い続けることは、まったく別の話。
しかも第一ニットは、2022年にも新たなフルファッション編機を特注導入している。
古い技術を守るだけでなく、必要な設備を新たに導入しながら、ニット製造の可能性を追求し続けている。
この姿勢もまた、第一ニットの凄さ。
機械の精度を、一着の服へと変える職人技
そして、第一ニットの凄さは編機だけではない。
一着のニットを完成させるまでには、編み、リンキング、縫製、仕上げ、検品など、数多くの工程がある。
どれほど美しい編み地が完成しても、それだけではまだ服にはならない。
身頃と袖をつなぎ、襟を取り付け、全体の形を整え、ようやく一着のニットとして完成する。
その中でも高度な技術を必要とするのが、リンキング。
編み上がったパーツの編み目を一目ずつ拾い、専用の機械で正確につなぎ合わせていく工程。
ニットは編み目が連続することで生地になっているため、そのつなぎ目が乱れれば、着心地や仕上がりの美しさにも影響する。
特にハイゲージの細かな編み目ともなれば、作業には一層の精度が求められる。
機械が精密に編み上げたものを、人間の技術で正確につなぎ合わせる。
その両方が揃って、初めて美しい一着が成立する。
第一ニットが長年にわたり培ってきたのは、こうした製造工程全体にわたる技術の蓄積。
アイロンで、服の形を完成させる
そして個人的に、特に面白いと感じたのが仕上げのアイロン。
第一ニットでは「うま」と呼ばれる専用のアイロン台を使い、蒸気と熱を加えながら、身体に沿う立体的なシルエットへと仕上げていく。
ここで行われているのは、単にシワを伸ばすためのアイロンではない。
編み上がったニットの形を整え、服としての輪郭を完成させるための作業。
ニットは糸がループ状につながっているため、柔らかく伸縮する。
その性質を理解したうえで蒸気と熱を加え、必要な部分を整えながら、身体に沿う自然な形へと仕上げていく。
これは、ニットという素材の性質を熟知した職人だからこそできる仕事。
精密な編機によって作られた編み地が、最後は人間の手によって立体的な服になる。
しかも、完成した服を見ても、その作業の跡が目立つわけではない。
自然で美しいシルエットとして表れるだけ。
こういう技術こそ、実に凄い。
何の装飾もないニットほど、技術が表れる
そして、ここまで第一ニットの技術を調べてきて、改めて面白いと感じたことがある。
それは、何の装飾もないシンプルなニットほど、製造技術の差が表れやすいということ。
複雑な柄や装飾があれば、まず目に入るのはデザイン。
一方、無地でシンプルなニットでは、編み地そのものの美しさ、襟や袖の収まり、縫い合わせの精度、全体のシルエットが、そのまま服の表情になる。
糸が良いだけでは完成しない。
高性能な編機があるだけでも完成しない。
その糸を美しく編み上げ、正確につなぎ、最後は職人の手で形を整える。
何気ない一着の中に、製造に関わるすべての技術が詰まっている。
一見すると普通。
でも、その普通を極めて高い完成度で作り上げることは、決して簡単ではない。
第一ニットが長年磨いてきた技術の価値は、まさにここにある。
30/70 TRENTA SETTANTAの誕生
そんな第一ニットが2020年に立ち上げたファクトリーブランドが、30/70 TRENTA SETTANTA。
ブランドの立ち上げには、ファッションディレクターの干場義雅氏も参加。
掲げたコンセプトは「究極の普通」。
世界トップクラスの製造技術を、日常の一着へ。
華美な装飾に頼るのではなく、上質な素材、美しい編み地、精密な仕立て、そして自然なシルエットで勝負する。
これまで世界の名だたるメゾンブランドの製造を支えてきた工場が、その技術を自分たちのブランドに注ぎ込む。
しかも、ファクトリーブランドだからこそ実現できる価格で。
世界のメゾンブランドから高く評価される技術を、第一ニット自身のブランドとして届ける。
この工場が作るからこそ、「究極の普通」という言葉に説得力がある。
これは実に面白い。
LAMPAへの入荷
ちなみに今回の取り扱いは、第一ニットの社長から、LAMPAのInstagramを見たと直接DMをいただいたことがきっかけ。
これほどの技術を持つ工場から直接声をかけてもらった。
そして今回、その第一ニットが手掛けるLUSSOシリーズから、ニットポロとハーフジップの2型が入荷。
どちらもカシミヤ70%、シルク30%。
18ゲージのスムース編みで仕立てられた、一見すると実にシンプルなニット。
30ゲージのフルファッション編機とは異なる製造技術によるものだが、そこにも第一ニットが長年培ってきた素材と編み地への知識が生かされている。
そして、この2型がまた凄い。
その世界トップクラスの技術が、実際の一着にどう表れているのか。
次回は、入荷したLUSSOの2型をじっくり紹介します。
