2026/10/29 19:18












MODMNT SUPER MACKINAW
鈴木大器氏とNANGAが生み出した、もうひとつのマッキーノ。
服の歴史を知れば知るほど、昔の人々が必要に迫られて生み出したデザインの合理性には驚かされる。今では装飾として見られるポケットや切り替え、独特なシルエットにも、かつては明確な役割があった。なぜその場所に生地を重ねたのか。なぜこれほど多くのポケットが必要だったのか。その理由を辿っていくと、古い服が単なる懐古趣味では片付けられないことが分かってくる。
そして、その構造を深く理解したうえで、現代の素材や技術を使い、新しい服へと組み替えるデザイナーがいる。鈴木大器氏もその一人だ。アメリカのワークウェア、ミリタリー、アウトドアウェアを背景に持ちながら、形をなぞるだけでは終わらせず、素材の組み合わせや独自のパターンによって新しい服へと発展させてきた。
今回紹介するMODMNT SUPER MACKINAWは、そんな鈴木大器氏のデザインと、日本のダウンメーカーNANGAの技術が結びついた一着だ。源流にあるのは、アメリカの老舗FILSONが生み出したDOUBLE MACKINAW CRUISER。森林で働く人間のために生まれた仕事着を出発点に、防水透湿素材、難燃素材、高品質なダウンを組み合わせ、まったく異なる構造の防寒着へと作り変えている。
僕がこの服に惹かれたのは、機能素材を贅沢に使っているからだけではない。100年以上前の森林作業着に存在した理由を消さず、その役割を現代の技術へ置き換えているところだ。肩から胸を覆うケープ、二重になった袖、身体を取り囲むポケット。その一つひとつが歴史につながりながら、最終的には強烈な存在感を放つ一着の洋服になっている。
1914年のCRUISER
SUPER MACKINAWを理解するには、まずFILSONのCRUISERという服の歴史を知る必要がある。FILSONは1897年、アメリカのシアトルで創業。ゴールドラッシュに沸くアラスカへ向かう探鉱者たちに衣料や装備を供給し、その後はアメリカ北西部の森林で働く人々のための衣服を数多く生み出してきた。
CRUISERとは、森林を歩いて樹木を調査するTIMBER CRUISERに由来する名称だ。彼らは森の中を長時間歩き、樹木の種類や大きさ、木材としての価値を調査する。地図や野帳、コンパス、測定具を携え、雨や雪の中でも仕事を続ける。身体を守ることと、多くの道具を携行すること。その二つを一着の服で成立させる必要があった。
FILSONの創業者Clinton C. FilsonがCRUISERの特許を申請したのは1912年10月28日。そして1914年3月3日、アメリカ特許第1088891号として成立している。特許には森林調査員だけでなく、森林監視員、測量などに従事する技術者、探鉱者などを対象とした衣服であることが記されている。
面白いのは、この1914年の時点ですでに、後のDOUBLE MACKINAWへとつながる合理的な設計思想が見えることだ。必要な収納を衣服そのものへ組み込み、身体を保護しながら道具を携行する。ポケットも切り替えも、格好をつけるために足されたものではない。仕事をするために必要だった構造そのものが、CRUISERという服の個性になった。
その後、1922年のFILSONのカタログには肩と袖を二重にしたCRUISERが登場し、1934年には肩から胸を覆うケープ状の構造と二重袖を備えたモデルが確認できる。肩、胸、背中だけでなく袖まで生地を重ね、雨や雪、冷たい風にさらされる部分を守る。現在知られるDOUBLE MACKINAW CRUISERの圧倒的な姿は、森林作業の必要性から生まれたものだ。
基本となるCRUISERには24ozの厚手ウールを使い、さらにその上からケープ状にウールを重ねる。袖も二重。背中には地図などを収める大型のマップポケットを備え、前身頃にも道具を用途別に収めるためのポケットが並ぶ。生地を重ねて身体を守り、ポケットを増やして道具を運ぶ。その徹底した合理性の結果として、あの独特なDOUBLE MACKINAWの造形が生まれた。
ここで鈴木大器氏は、その形をそのまま再現する方向へは進まない。厚手ウールが担っていた防寒や耐候性を、現代の異なる機能素材へ置き換える。それでいて、DOUBLE MACKINAWを象徴するケープ状の切り替え、二重袖、数多くのポケットは残す。昔の服の表面ではなく、その服がなぜその形になったのかという部分を拾い上げている。歴史を知り、構造を理解したうえでの再構築だ。
AURORA-TEXとHINOC
SUPER MACKINAWの生地には、NANGAが展開する二種類の機能素材が使われている。身頃全体には難燃素材HINOCを採用し、その上から肩、胸、背中を覆うAURORA-TEXのケープ状パーツを重ねる。さらにフードと袖にもAURORA-TEXを使い、袖はDOUBLE MACKINAWと同じ発想で二重構造にしている。
昔はウールを重ねた。MODMNTは機能の異なる素材を重ねる。この違いに、今回の服作りの面白さが凝縮されている。
AURORA-TEXは、ナイロン生地の裏側に多孔質ポリウレタンによる防水コーティングを施したNANGA独自の防水透湿素材。標準タイプでは40デニールのナイロンを使用し、耐水圧20,000mm、透湿性6,000g/m²/24hという性能を備える。耐水圧20,000mmは、試験条件下で高さ20mの水柱に相当する水圧に耐える数値だ。
透湿性6,000g/m²/24hは、一定条件下で24時間に生地1平方メートルを通過する水蒸気量を示す。多孔質ポリウレタンの微細な孔によって液体の水の侵入を抑えながら、衣服内部の水蒸気を外へ逃がす。表面で水滴を弾く撥水だけではなく、その裏側に防水層を持つ素材を、かつてウールを重ねていた場所へ配置している。
これが面白い。DOUBLE MACKINAWのケープを見た目だけ引用したのではなく、雨や雪から身体を守るために生地を重ねた場所へ、現代の防水透湿素材を重ねている。さらに袖まで二重にする。100年前の構造と現代の素材が、ここで一本につながる。
もう一方のHINOCは、ポリエステル93%、アラミド7%を組み合わせたNANGAの難燃素材。一般的なポリエステルは熱によって溶融しやすく、火の粉が付着すると穴が開く場合がある。そこへ耐熱性を持つアラミド繊維を混ぜ、火の粉による損傷や燃え広がりを抑えることを考えた素材だ。
アラミドは芳香族ポリアミド系の高機能繊維で、耐熱性や強度に優れ、防護服や産業資材などにも採用される。代表的なものにはKevlarやNomexがある。特殊な用途のために発達してきた繊維技術が、アウトドアウェアの素材へ持ち込まれている。HINOCではポリエステルを主体としながらアラミドを組み合わせることで、難燃性と衣服としての柔らかさや扱いやすさの両立が考えられている。
そしてHINOCには、コットンを思わせる自然な表面感がある。身頃にはワークウェアらしい落ち着いた表情が生まれ、その上からAURORA-TEXが重なる。同じ色なのに質感が違う。この差がSUPER MACKINAWの見え方を決定的に面白くしている。
色を切り替えてケープを目立たせるのではない。同色のまま、光の当たり方と生地の質感だけでケープや二重袖の存在が浮かび上がる。機能のために選ばれたAURORA-TEXとHINOCが、そのままデザインになる。異なる役割を持つ二つの素材を、ひとつの色でまとめ上げたところに鈴木大器氏の感覚が表れている。
760FPを150g
その外側の構造に包まれるのが、NANGAが採用するスペイン産ホワイトダックダウンだ。ダウン90%、フェザー10%、760フィルパワー。SUPER MACKINAWには150gが封入されている。
NANGAが使用するスペイン産ダウンの背景には、フランスとスペインの国境に位置するピレネー山脈東部の飼育環境がある。採用されるのはムラード種と呼ばれる水鳥で、マスコビー種とペキン種などを交配して生まれる品種。NANGAは、この水鳥から大きく発達したダウンボールが得られることを特徴としている。
さらにNANGAの資料では、スペインの契約農場で80日以上の長期飼育を行っていると説明されている。一般的な短期飼育では40日未満とされるところを、倍以上の時間をかける。飼育期間を確保することで羽毛が成熟し、羽枝や小羽枝が発達した嵩高性のあるダウンを得やすくする。スペイン産という名前だけではなく、水鳥の種類、環境、飼育期間まで含めて原毛を考えている。
ダウンボールは、中心から細い羽枝が放射状に広がった綿毛状の羽毛だ。その細かな枝の間に大量の空気を抱え込むことで断熱層を作る。羽毛そのものが熱を生むのではなく、身体から生まれた熱を逃がしにくくする空気の層を作る。その膨らみを示す指標がフィルパワーだ。
760FPは、規定された試験条件下で一定重量の羽毛がどれだけの体積に膨らむかを表した数値。一般的な600FP前後のダウンと比べても高い嵩高性を持つ。細かな羽枝が大きく広がり、その間に空気を蓄えることで、重量を抑えながら保温層を形成する。その760FPのダウンを150g封入するという仕様が、SUPER MACKINAWの防寒性を内側から支えている。
そしてスペインから届いた原毛を仕上げるのが、1891年創業の日本の羽毛専門メーカー、河田フェザーだ。三重県明和町で原毛の洗浄、乾燥、除塵、選別までを一貫して行い、NANGAが世界トップレベルと評価する精製技術によって羽毛本来の膨らみを引き出していく。
洗浄に使用するのは伊勢平野の地下水。硬度3〜5mg/Lという極めて軟らかい水で、一般的な水道水の硬度50〜60mg/L程度と比べても大きく異なる。ミネラル分の少ない超軟水と独自の水流による研ぎ洗いで余分な油脂や不純物を取り除き、高温乾燥、除塵、選別を経て羽毛を仕上げる。
その精製の徹底ぶりが数字になって表れるのが清浄度だ。羽毛を水とともに振とうし、その水の透明度を測定する。日本羽毛製品協同組合の基準では500mmが一つの目安。それに対してNANGAが公表する羽毛の清浄度は2,000mm。基準となる500mmに対して測定深度で4倍だ。
スペインで80日以上かけて育てられた水鳥から原毛を得て、日本の超軟水と精製技術で仕上げ、760FPまで膨らむダウンを150g封入する。表から見えるケープやポケットだけでなく、外からは見えない羽毛の品質にまで、これだけの技術と工程が積み重なっている。厚手ウールを重ねた昔のDOUBLE MACKINAWとは異なる方法で、身体を包む保温層を作り上げているわけだ。
13個のポケット
ここまで素材の話をしてきたが、SUPER MACKINAWの面白さは、何といってもそれらの素材を一着の洋服としてまとめ上げた鈴木大器氏のデザインにある。
まず目を奪われるのが、内外合わせて13個という圧倒的な数のポケットだ。前身頃には複数の大型ポケットが並び、背面にも収納を設ける。肩から胸を覆う大きなケープの下にポケットが重なり、身頃全体がいくつもの立体的な構造によって形作られている。
かつてFILSONのCRUISERは、地図や野帳、コンパス、測定具を携え、森林を歩き回る人々のために生まれた。道具を持ち運ぶために必要だったポケットが、衣服の外観そのものを作っていた。SUPER MACKINAWに並ぶ13個のポケットにも、その仕事着としての記憶が色濃く残されている。
そして、このポケットの存在が実に格好良い。身頃に重なる大型ポケットが立体的な陰影を生み、ケープの切り替えとともにジャケット全体の輪郭を作る。ポケットを増やせば、それだけ生地の重なりも増え、服の表情は複雑になる。その複雑さを整理して一着のデザインへ落とし込んでいるところに、鈴木大器氏の服作りの面白さがある。
フロントはジップとボタンを組み合わせた構造。大きなフード、肩から胸を覆うケープ、袖の二重構造、身頃を取り囲むポケット。DOUBLE MACKINAWを構成していた要素が残っているのに、24ozのウールジャケットとはまるで違う姿をしている。
特に僕が見てほしいのは二重袖だ。ケープだけなら、DOUBLE MACKINAWの特徴的な見た目を引用するだけでも作れる。そこからさらに袖まで二重にすることで、1920年代から1930年代に発展していったDOUBLE MACKINAWの設計思想まで拾っていることが分かる。
肩、胸、背中、そして腕。外気にさらされる上半身を生地の重なりで守った構造を、AURORA-TEXとHINOCによって組み直す。大きなケープも二重袖も、単なる装飾では終わっていない。歴史的な仕事着の構造が、現代の機能素材を通して新しい造形へと生まれ変わっている。
同色異素材がつくる輪郭
シルエットは身幅にゆとりを持たせたボリュームのある設計。内部にダウンを封入しながら、一般的なダウンジャケットとはまったく違う輪郭を作る。肩から胸へ大きく広がるケープ、ゆとりのある袖、身頃に重なる大型ポケット。ダウンの膨らみだけで形を作るのではなく、複数の構造が重なることでSUPER MACKINAWの姿が出来上がる。
実際に着たときに効いてくるのが、AURORA-TEXとHINOCを同色で組み合わせた見え方だ。肩から胸を覆うAURORA-TEXのケープ。その下に広がるHINOCの身頃。色は同じ。それでも表面の質感が異なるから、光を受けるとケープの輪郭が浮かび、二重袖の重なりも見えてくる。
色で説明しないからこそ、構造そのものが見える。
これだけ複雑なディテールを持ちながら、全体を同色でまとめることで、13個のポケット、ケープ、二重袖という情報量が一着の中に収まっている。近くで見れば異素材の違いが分かり、少し離れれば大きなケープとボリュームのあるシルエットが強烈な輪郭として残る。
特に面白いのは、見る距離によって服の印象が変わることだ。遠目には大きなケープを備えた重厚なジャケット。しかし近づけば、異なる素材の質感、立体的なポケット、袖の重なりが次々と見えてくる。ひとつの服の中に、森林作業着の歴史と現代の素材技術、そして鈴木大器氏の造形感覚が詰まっている。
SUPER MACKINAW
100年以上前、森林で働く人間を雨や雪から守り、地図や測定具を持ち運ぶために発展したDOUBLE MACKINAW。その合理性を鈴木大器氏が拾い上げ、NANGAの技術によって現代の防寒着へと作り変えた。
厚手ウールの重なりは、HINOCと耐水圧20,000mmのAURORA-TEXへ。ウールが作っていた防寒層は、スペインで80日以上かけて育てられた水鳥の原毛を河田フェザーが精製した760FPのダウン150gへ。そして、DOUBLE MACKINAWを象徴する肩から胸を覆うケープ、二重袖、仕事着の記憶を残す13個のポケットは、現代の造形として受け継がれている。
僕がLAMPAでこの服を紹介したかった理由は、まさにここにある。古い服の歴史を知り、その構造を理解し、現代の素材技術を組み合わせる。それだけの知識と技術が投入されながら、最後には理屈を知らなくても目を奪われる一着の洋服になっている。服の背景を知れば知るほど、目の前にあるケープやポケット、二重袖の意味が変わってくる。
肩から胸を大きく覆うAURORA-TEXのケープ。その下に広がるHINOCの身頃。腕を包む二重袖と、身体を取り囲む13個のポケット。そして、その内側にはスペイン産760FPのダウンを150g封入しています。100年以上前の森林作業着が持っていた合理性が、現代の素材技術と鈴木大器氏のデザインによって、これほど大胆なダウンジャケットへと生まれ変わっています。
