2026/10/24 19:17


LAMPA CITY STANDARD
~東京カジュアルの正統派~
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MODMNT T/TWEED UTILITY CPO SHIRT

海軍の仕事着を、素材と構造から再構築する。
ウールの表情を化学繊維でつくり、機能美を新たな造形へ。

服を長く見続けていると、ミリタリーウェアの面白さは、単に無骨で格好いいということだけではないと感じる。なぜその場所にポケットがあるのか。なぜ襟を立てて留められるのか。なぜシャツの形をしていながら、ジャケットとしても着られるのか。そこには、実際にその服を必要とした人たちの仕事や生活があり、その要求に応えるための工夫が積み重なっている。何十年も前につくられた服に、今でも惹かれる理由の一つは、そうした構造そのものが持つ説得力にある。

今回紹介するMODMNTのT/TWEED UTILITY CPO SHIRTも、そんな軍用衣料の構造を出発点にした一着だ。ベースとなるのは、アメリカ海軍のCPOシャツ。厚手のウール生地を用い、シャツの構造を持ちながら防寒用の上着としても機能してきた服だ。そこへユーティリティウェアの考え方を取り入れ、胸だけでなく腰、袖、背面にまで収納を広げている。もともと胸元を中心にポケットを備えていたCPOシャツが、身体の前後左右に収納を持つ服へと変化している。

さらに興味深いのが素材の選択だ。ウールツイードを思わせる複雑な色合いと膨らみを持ちながら、実際にはポリエステルの特殊な糸によってつくられたTECHTWEEDを採用。しかも、ウール特有のチクチク感がなく、裏地を付けずに仕立てられている。見た目はクラシカルなツイード。しかし、身体に触れるのは現代の技術でつくられたポリエステルの加工糸。昔ながらのCPOシャツを再現するのではなく、生地の成り立ちから見直すことで、着る時の感覚まで変えている。

僕がこの服に惹かれるのは、こうした過去の服との向き合い方だ。元になった服を知っているからこそ、その形を忠実に残すことだけが正解ではない。CPOシャツの構造を理解し、ユーティリティウェアの収納を組み合わせ、さらに素材を現代の技術で置き換える。それぞれに異なる背景を持つ要素が、一着の服として自然につながっている。鈴木大器氏が手掛けるMODMNTの魅力は、単なるディテールの組み合わせではなく、異なる服の成り立ちを理解したうえで、新しい形へと再構築するところにある。

TECHTWEEDという素材

このシャツの印象を大きく決めているのが、特殊な撚糸技術によって生まれたTECHTWEEDだ。ウールツイードが持つ複雑な色の混ざり方と、糸そのものの膨らみ。それをポリエステルという化学繊維で表現している。

一般的なポリエステル生地と大きく異なるのは、単に表面をツイード調に仕上げているのではなく、原料の組み合わせと糸のつくり方から、あの独特な表情を生み出していることだ。

まず語りたいのが、色のつくり方だ。TECHTWEEDでは、レギュラーポリエステル、カチオン可染ポリエステル、原着ポリエステルという、三種類の異なる特性を持つ原料を組み合わせている。すべてポリエステルでありながら、染色への反応や色を持つ仕組みがそれぞれ異なる。

レギュラーポリエステルは一般的な分散染料で染色する原料。カチオン可染ポリエステルは、繊維を構成する分子の段階からカチオン染料で染まる性質を持たせたもの。そして原着ポリエステルは、繊維になる前の原料段階で着色したものだ。つまり、同じポリエステルという素材の中に、染まり方の異なる成分と、最初から色を持った成分を組み合わせている。

この仕組みによって生まれるのが、トップ調と呼ばれる複雑な色合いだ。ウールのツイードには、一見すると単色に見えても、近くで見ると異なる色の繊維が細かく混ざり合っているものがある。離れればひとつの色としてまとまり、近付けば細かな濃淡が見えてくる。

TECHTWEEDでは、異なる染色特性を利用することで、その奥行きのある色の表情をポリエステルで表現している。単純に一色へ染め上げるのではなく、糸を構成する原料の違いによって複雑な色合いを生み出す。ウールツイードの魅力を、色の成り立ちから捉え直しているのだ。

日本の特殊撚糸技術

ただし、色を複雑にするだけではツイードらしい生地にはならない。細く滑らかな糸で平坦に織り上げれば、色に奥行きがあっても、ウールツイード特有の立体的な表情とは異なるものになる。

そこでTECHTWEEDでは、日本の特殊な撚糸技術を用い、ポリエステルのフィラメントから膨らみのある加工糸を開発している。色の細かな混ざり方に、糸の膨らみが生む陰影が重なることで、表面にはツイードを思わせる豊かな凹凸が現れる。

ここが、この生地の核心だと思う。ウールツイードの魅力は、単に色柄だけで決まるものではない。異なる色の繊維が混ざり合い、糸に膨らみがあり、その糸が織物になることで表面に陰影が生まれる。そうした複数の要素が重なって、あの独特な表情が成立している。

TECHTWEEDは、その仕組みをポリエステルで組み立て直している。ウールに似た見た目だけを追いかけるのではなく、なぜウールツイードが魅力的に見えるのかを、原料と糸の段階から考えている。昔からある素材の表情を、異なる技術でつくり上げるという発想が、この生地には詰まっている。

ツイードの表情と着心地

そして、実際に着ることを考えた時に大きな意味を持つのが、肌に触れた時の感覚だ。一般的なウールツイードでは、繊維の毛羽によるチクチクとした刺激が気になることがある。しかし、このTECHTWEEDにはそうしたチクチク感がなく、裏地を付けずに仕立てられている。

Tシャツの上から直接羽織れるため、ツイードらしい豊かな表情を持ちながら、肌に触れる部分まで気を遣う必要がない。見た目はクラシカルなウールの織物を思わせるのに、実際に身体へ触れるのはポリエステルの加工糸。この見た目と着心地の違いこそ、素材を置き換えた大きな意味だ。

さらにTECHTWEEDは、素材として防シワ性やイージーケア性を特徴としている。クラシカルな織物の表情を、現代の日常着として取り入れるための工夫が、素材そのものに施されている。

この生地をCPOシャツに採用した意味も、そこにある。本来のCPOシャツが持つ厚手のウールによる防寒着としての印象を残しながら、実際には異なる繊維によってその表情を再構築する。しかも、多数のポケットやチンストラップといった実用的なディテールに対して、ツイード調の複雑な色合いが加わることで、無骨な構造だけが前へ出ない。素材が変わることで、服そのものの見え方まで変わっている。

CPOシャツの歴史

CPOとはChief Petty Officerの略で、アメリカ海軍の上級下士官を指す言葉。CPOシャツは、海軍で使用されてきた厚手のウールシャツをルーツに持ち、シャツの構造でありながら、防寒用の上着としての役割も担ってきた。

襟があり、前開きで、袖口にはカフスを備える。基本的な構造はシャツでありながら、厚手の生地によって身体を覆い、上着としても機能する。シャツとジャケットの境界にあるという性格は、もともとCPOシャツが持っていたものだ。

一方、ユーティリティウェアは、軍や作業現場で日常的に身体を動かし、仕事をするための服だ。必要な物を携帯するための収納や、動作を妨げない構造が求められる。代表的な軍用ユーティリティシャツでは、胸元のポケットなど、仕事に必要な機能が服の形を決めてきた。

MODMNTは、このCPOシャツとユーティリティウェアという二つの考え方を重ねている。しかも、どちらかの形をそのまま持ち込むのではなく、それぞれが持つ構造を組み合わせることで、一着の服として新たな輪郭をつくっている。

身体を囲む多収納構造

このT/TWEED UTILITY CPO SHIRTでは、左胸、両腰、背面の左右、さらに左袖にまでフラップポケットを配置している。一般的なCPOシャツの胸元を中心とした収納を、身体の周囲へと広げているのだ。

ここで注目したいのは、単にポケットの数を増やしたわけではないということ。胸にあるポケットと腰にあるポケットでは、服の中での役割も見え方も異なる。腰に収納を加えることで、シャツだったものにジャケットとしての構造が生まれる。さらに袖や背面にもポケットを配置することで、前身頃だけでは完結しない立体的な造形へ変化している。

特に背面の左右に配置されたポケットは興味深い。通常のシャツでは大きな装飾を持たないことも多い背中に、左右のフラップと収納部分が加わることで、後ろ姿にも明確な構造が生まれる。

正面では胸と腰のポケットがつくる横方向の線が目に入り、横から見れば袖のポケットがアクセントになる。そして背面へ回れば、そこにも収納が設けられている。正面だけでデザインが完結していない。身体の周囲に配置されたポケットが、見る方向によって異なる表情をつくっている。

こうした収納は、もともと仕事に必要な物を携帯するために発達してきたものだ。しかし、この一着では、その実用的な構造が服全体の造形を決める重要な要素にもなっている。

胸、腰、袖、背面。それぞれの場所にポケットがあることで、シャツの基本構造に新しい線と量感が加わる。機能を増やすことが、そのままデザインをつくることにつながっている。単に軍用シャツへポケットを追加しただけでは、この見え方にはならない。

襟元のチンストラップ

そして襟元にはチンストラップを装備。襟を立てて留めることで首元を覆うことができる、軍用シャツにも見られる実用的な仕様だ。

襟を開けばシャツらしい首元になる。反対に襟を立ててチンストラップを留めれば、首元を覆う防寒着としての構造が前へ出る。同じ一着でありながら、襟の扱い方によって首元の輪郭が変わる。

このチンストラップも、単なる装飾として加えられたものではない。もともと必要があって生まれた構造であり、その役割を残しながら、現在では着た時の印象を変えるディテールにもなっている。

胸や腰、背面のポケットと同じく、実用から生まれた部品が服の造形をつくる。MODMNTが軍用衣料を出発点にする意味は、こうした一つひとつの構造の扱い方に表れている。

シャツとジャケットの境界

このT/TWEED UTILITY CPO SHIRTを考えるうえで、もうひとつ重要なのが、シャツとジャケットの境界にあるということだ。もともとCPOシャツ自体が、シャツの構造を持ちながら上着としても着られる服だった。MODMNTはその性格を受け継ぎながら、腰や背面に収納を加え、さらにTECHTWEEDの豊かな表情を組み合わせることで、ジャケットとしての存在感を強めている。

シャツとして見れば、襟と前開き、袖口という基本的な構造が残っている。一方で、腰に配置されたポケットや首元を覆うチンストラップ、背面まで広がる収納を見ると、明らかに上着としての性格が強い。どちらか一方に決めるのではなく、二つのカテゴリーが持つ特徴を一着の中に共存させている。

ブランドが提案する、羽織りとしてもインナーとしても着られるという考え方も、この構造とつながっている。前を開けて羽織れば、胸から腰、袖へと広がるポケットがジャケットらしい輪郭をつくる。反対に上着の内側へ着れば、襟元や胸のディテール、TECHTWEEDの複雑な色合いが装いの中に残る。

しかも、TECHTWEEDにはウール特有のチクチク感がなく、裏地も付けられていない。Tシャツの上から直接羽織ることもできる。シャツとしての構造と、ジャケットとしての存在感。その両方を備えながら、着方を一つに限定しない。

鈴木大器氏の再構築

ここにも鈴木大器氏の服づくりが表れている。ミリタリー、ワーク、アウトドア、トラッドといった異なる背景を持つ服を、単純に組み合わせるだけではない。それぞれの構造が持つ意味を理解し、現在の服として成立する位置を探している。CPOシャツにユーティリティウェアの収納を重ね、さらにTECHTWEEDを選ぶという判断も、その延長にある。

特に注目したいのは、素材とデザインが互いの印象を変えているところだ。もし一般的な無地の軍用生地で仕立てれば、多数のポケットが持つ実用的な性格がより強く現れるだろう。反対に、TECHTWEEDを装飾の少ない普通のシャツに使えば、素材の表情そのものが中心になる。

しかし、この一着では複雑な収納と複雑な色の生地が重なることで、どちらか一方だけでは生まれない造形が成立している。軍用衣料から生まれた機能的な構造と、クラシカルなツイードを思わせる素材の表情。その二つが互いの個性を消すことなく、一着の中で共存している。

そして、その複雑さを支えているのがCPOシャツという馴染みのある形だ。襟があり、前開きで、袖口を備えたシャツの基本構造が残っているからこそ、これだけ多くのポケットを加えても、服としての輪郭を見失わない。古い服の形を知っていることが、自由に組み替えるための土台になっている。

MODMNT T/TWEED UTILITY CPO SHIRT

昔の服を忠実に再現することにも価値はあります。しかし、その服が生まれた理由を理解したうえで、素材や構造を新しく組み替えることにも、大きな魅力があります。

MODMNTのT/TWEED UTILITY CPO SHIRTは、海軍の防寒用シャツを出発点に、ユーティリティウェアの収納を重ね、ウールツイードの表情をポリエステルの技術でつくり直した一着です。胸、腰、袖、背面へと広がるポケットが立体的な造形を生み、TECHTWEEDの複雑な色合いと膨らみが、その無骨な構造に異なる表情を与えています。

前を開けて羽織れば、多収納のジャケットとしての姿が現れます。上着の内側では、シャツとしての構造と素材の表情が生きてきます。さらに、Tシャツの上から直接羽織れる肌触りも備えています。

軍用衣料の歴史を知るほど、その構造の意味が見えてきます。そして実際に着れば、素材を変え、収納を増やし、異なる服の要素を組み合わせた理由が、ひとつの服として伝わってきます。古い服を深く理解しているからこそ生まれる、新しい服の形。鈴木大器氏の自由な発想と、それを一着にまとめ上げる服づくりの魅力を、ぜひ味わっていただきたいと思います。