2026/10/24 17:24













MODMNT UNIFORM PANTS
トレイルパンツの合理性を、太さのある端正な輪郭へ組み替える。
服を長く見続けていると、機能服の面白さは、高性能な素材や便利なディテールだけではないと感じる。なぜポケットがそこにあるのか。なぜ裾を絞れるのか。なぜ途中から脚を外せるのか。ひとつひとつの仕様を辿っていくと、その服が生まれた場所や、そこで人がどう動いていたのかまで見えてくる。服の形には必ず理由がある。そして、その理由を知るほど、服はもっと面白くなる。
今回紹介するMODMNTのUNIFORM PANTS。その起点にあるのは、アウトドアのトレイルパンツだ。山や自然の中を歩き続けるために、必要な物を身体の近くに携帯し、足元の状態に合わせて裾を調整し、気温や環境が変われば膝下を外してショーツへ変える。異なる条件へ一着で対応するために発達してきた、非常に合理的なパンツである。
ところが、このUNIFORM PANTSを初めて見た時、いかにもアウトドアウェアという印象は受けなかった。腰回りから腿にはしっかりと量感を持たせ、裾にも幅を残した太めのシルエット。ポケットは必要以上に張り出さず、着脱部分も服の中へ収めている。どこかアメリカのワークパンツを思わせる端正な姿。その中に、トレイルパンツが持っていた機能が潜んでいる。
僕がこのパンツに惹かれたのは、まさにそこだ。元になった服のディテールを並べるのではなく、その機能が生まれた理由まで理解したうえで、現在の街で穿いた時にどう見えるかを考え直している。山を歩くための機能を残しながら、その役割をシルエットや着こなしを変えるための仕組みへと読み替える。鈴木大器氏が長年続けてきた、服の背景を理解し、別の文脈で再構築するという服づくり。その考え方が、この一本にはっきりと表れている。
トレイルパンツの合理性
トレイルパンツを理解するうえで重要なのは、一つの環境だけを想定した服ではないということ。朝は冷えていても、歩き始めれば身体は温まる。草木の多い場所では脚を覆いたいが、気温が上がれば短い方が快適になる。足場によっては裾の広がりを抑えたい。長い距離を移動する中で変わり続ける条件へ、その場で対応するための仕組みがパンツそのものに組み込まれてきた。
つまり、トレイルパンツの機能とは、ただ便利な装備を増やすことではない。変化する環境に対して、穿く人自身が服の状態を変えられることに意味がある。
膝下を外すという発想
UNIFORM PANTSに備えられた膝下の着脱機構も、その考え方から生まれたものだ。ファスナーによって下部を取り外せば、ロングパンツからショーツへ変化する。こうしたコンバーチブル構造は決して新しいものではない。
例えば、1978年に創業したアメリカのBanana Republic。現在の姿からは想像しにくいかもしれないが、創業当時はサファリや旅行をテーマにした衣料品を展開していたブランドだ。1982年や1985年のカタログには、旅先の環境に合わせて形を変えられるパンツが登場する。中には膝下だけでなく、カーゴポケットまで取り外せる仕様を持ったものもあった。
涼しい時間帯には脚を覆い、暑くなれば下部を外し、虫や草木から脚を守る必要があれば再び取り付ける。さらに収納そのものまで着脱できる。移動する先々で変わる条件に、一着のパンツで対応しようとした当時の発想が、そこにはある。
そしてMODMNTは、この昔からある構造を、現在の街で穿くパンツのシルエットへと組み込んでいる。UNIFORM PANTSは腰回りから腿に十分な量を持たせているため、膝下を外すと、細身のアウトドアショーツとは異なる、量感を持ったショーツが現れる。ロングパンツの状態では、腿から裾へ続く生地が縦方向の輪郭をつくる。ところが膝下を取り外した瞬間、その縦の長さが消え、腰から腿にかけての太さが一気に際立つ。
単にパンツの丈が短くなるだけではない。服全体の比率が変わり、まったく違う表情が生まれる。もともとは気温に対応するための機能だったものが、街ではシルエットそのものを変えるための機能にもなる。機能の構造はそのままに、穿いた時の意味を変えているのだ。
裾のドローコード
裾に設けられたドローコードも同じだ。本来は足元の状況に応じて裾口を調整するためのものだが、街で穿けばシルエットを変えるためのディテールになる。
裾を開けば、幅を残した太い輪郭がそのまま現れる。絞れば裾口に生地が集まり、その上に量感が生まれる。膝下を残すか外すか。裾を開くか絞るか。
ロングパンツとして穿くだけでも二つの異なる表情があり、膝下を外せば、さらにショーツという別の姿が現れる。しかも、そのどれもが後から無理に付け足された仕組みではなく、もともとトレイルパンツに存在していた機能から生まれている。足元を調整するためのドローコードが、街ではパンツの輪郭を選ぶためのディテールにもなる。元の役割を残しながら、穿く楽しみを増やしている。
左右非対称の収納
収納にもトレイルパンツの考え方が残されている。山を歩く時、大きな荷物はバックパックへ入れても、歩いている途中ですぐに必要になる小物まで、そのたびに荷物を下ろして取り出すのは合理的ではない。だから身体の近くに収納を設け、動いても中身を落としにくい構造が求められる。
UNIFORM PANTSでは、左右で異なる位置と方向にファスナー収納を配置し、背面にもファスナーポケットを備えている。右腿脇の縦長のポケットには、アメリカのワークパンツに見られるツールポケットにも通じる姿がある。しかし、その開口部にはファスナーが備わり、機能服としての性格もきちんと残されている。
さらに注目したいのは、これだけ収納を備えながら、大型のカーゴポケットを外側へ大きく張り出させていないことだ。正面から見ればすっきりとした太めのパンツ。それなのに、近くで細部を見ていくと、左右非対称のファスナーや複数の収納が現れる。
機能を増やすことに熱心な服は数多くある。しかし、必要な機能を残したまま、それをどこまで自然なパンツの姿へ収められるか。UNIFORM PANTSは、そこにデザインの力を注いでいる。機能を隠しているからこそ、気付いた時にその構造が一層面白く見えてくる。
VENTONE後染めオックス
素材には、コットン62%、ポリエステル38%のVENTONE後染めオックスを使用。経糸には60番双糸のコットン、緯糸にはポリエステルを用い、異なる素材を交織して超高密度に織り上げている。
60番双糸とは、細い60番手の糸を二本撚り合わせたもの。細番手の繊細さを残しながら、双糸によって生地の骨格をつくる。さらに経糸と緯糸で異なる素材を使い、それぞれを染め分けることで、単色では表現しにくい複雑な色合いを生み出している。単純な一種類の糸による織物とは異なる、素材の組み合わせそのものから生まれる表情だ。
この高密度な生地には、耐久撥水、ピーチ、BIO、SOFT加工が施され、透湿性やUVカットといった機能も備わる。ピーチ加工によって表面には細かな毛羽が生まれ、滑らかな質感へと整えられている。
そして、この生地がUNIFORM PANTSのシルエットを支える重要な存在になっている。腰回りから腿、さらに裾まで十分な生地の量を持たせたパンツだからこそ、生地が柔らかく落ちすぎれば、せっかくの太さも曖昧になってしまう。VENTONEの高密度な織物が持つしっかりとした骨格によって、身体から離れた量感が保たれ、太さそのものが明確な輪郭として現れる。
同時に、ピーチ加工やSOFT加工によって表面の印象を和らげているため、複雑な機能や太いシルエットが必要以上に無骨な方向へ傾かない。ポケット、ファスナー、膝下の着脱、裾のドローコード。これだけ多くの仕組みを持ちながら、全体の印象は落ち着いている。
機能的なディテールをどれだけ巧みに配置しても、生地の表情が違えばパンツ全体の見え方は変わってしまう。構造を考えるだけでなく、それを成立させるためにどんな生地を選ぶか。UNIFORM PANTSの完成度は、そうした素材選びにも表れている。
KNOCK ABOUT PANTSからの再構築
MODMNTでは、UNIFORM PANTSをKNOCK ABOUT PANTSをベースに再構築したモデルとして位置付けている。トレイルパンツを起点とするKNOCK ABOUT PANTSの機能的な考え方を受け継ぎながら、UNIFORM PANTSではその表情をさらに整えている。
太さはしっかり残す。収納も減らさない。膝下を外す機構も、裾を調整する仕組みも持たせる。それでも、それぞれを必要以上に主張させない。接続部分にはファスナーを覆う生地を設け、ポケットも大きく張り出させず、背面の収納も細い開口部として処理する。
機能を取り除いて端正に見せるのではない。機能を残したまま、端正な外観をつくり上げているのだ。
鈴木大器氏の再解釈
ここで思い出すのが、同じMODMNTのPHOTOGRAPHER JKTだ。あちらは大小の収納や複雑な構造を、服の造形として積極的に見せていた。
一方、このUNIFORM PANTSは、トレイルパンツから受け継いだ機能を表面へ馴染ませている。機能を造形として前へ出すPHOTOGRAPHER JKTと、機能を自然な輪郭の中へ収めるUNIFORM PANTS。見せ方は異なるが、どちらも元になった服の合理性を理解し、それを現在のファッションとして再構築している点で共通している。
そして、UNIFORM PANTSを穿いた時にまず目に入るのは、複雑な機能ではなく、太さのあるパンツとしての輪郭だ。腰回りと腿に十分な量を持たせながら、裾まで極端に細くしない。身体の線に沿わせるのではなく、生地そのものの量で形をつくる。
その姿にはアメリカのワークパンツを思わせるところがありながら、近くで見れば左右非対称の収納や膝下の着脱機構が潜んでいる。遠目では端正な太いパンツ。近付くほどに、トレイルパンツから受け継いだ合理的な構造が現れる。この二つの表情が一着の中で成立していることに、鈴木大器氏らしい服づくりを感じる。
鈴木大器氏の服づくりには、異なる背景を持つ服を理解したうえで、その境界を固定しない魅力がある。UNIFORM PANTSも、トレイルパンツをそのまま街へ持ってきたわけではない。歩くための収納は外観を整えながら残され、環境へ対応する着脱機構はシルエットを変える仕組みになり、足元を調整するドローコードは輪郭を選ぶためのディテールにもなる。
元の機能を捨てるのではなく、その機能が持つ意味を広げている。過去の服を単なるデザインの資料として扱うのではなく、なぜその形が必要だったのかまで理解しているからこそ生まれる再解釈だ。
MODMNT UNIFORM PANTS
昔の服を知る面白さは、形の正解を探すことだけではありません。なぜその形になったのかを知ることで、現在の服が何を残し、何を変えたのかが見えてきます。UNIFORM PANTSは、山を歩くために生まれた合理性を残しながら、機能そのものをファッションへと変えています。
裾を開けば、太さのある輪郭を楽しめます。ドローコードを絞れば、生地の量感を変えられます。そして膝下を取り外せば、今度はボリュームのあるショーツが現れます。昨日は裾を開いて穿いていた一本が、今日は絞ることで違う表情になり、季節が変わればショーツとしても楽しめます。
何より魅力的なのは、その変化のすべてに、かつて山を歩く人たちのために考えられた機能が生きていることです。服の歴史を知る楽しさと、実際に穿いて形を変える楽しさ。その両方を一本のパンツで味わえます。トレイルパンツの合理性を、今の街で穿きたいファッションへと再構築した、LAMPAが自信を持って紹介したい一本です。
