2026/10/24 14:19













MODMNT PHOTOGRAPHER JKT
機能から生まれた造形を、一着の中で自由に組み替える。
服を長く見続けていると、過去の服が持つ魅力は、その形を忠実に再現することだけではないと感じる。軍服も、ワークウェアも、アウトドアウェアも、もともとは誰かの仕事や生活のためにつくられたものだ。必要だから生まれたポケットや切り替え、身体を動かすための構造。その本来の用途から離れた時、機能だったものが突然、純粋なデザインとして見えてくることがある。
MODMNTのPHOTOGRAPHER JKTは、その面白さを一着の中で思い切り広げたジャケットだ。出発点にあるのは、写真家の仕事着。撮影道具を携帯するための大小のポケットを備えながら、袖と裾をそれぞれ取り外せる構造を採用している。フルレングスのジャケットからロングベスト、ショートジャケット、そしてフィッシングベストを思わせるショートベストへ。パーツを外すたびに単に服が短くなるのではない。そこから、別のカテゴリーの服が現れる。
僕がこの服を面白いと思ったのは、ここだ。一着を便利に着回すためだけの着脱ではない。まったく違う仕事をする人間のためにつくられた服が、道具を身体に収め、両手を自由にするという機能によって、一着の中でつながっていく。服の形が変わることで、その背景にある別の仕事着の存在まで見えてくる。
その背景を考えるうえで興味深いのが、1982年の中国旅行でアンディ・ウォーホルが着用していた多ポケットのジャケットだ。フランスのrenomaが1979年に発表したマルチポッシュは、こうした機能服をファッションとして成立させた代表的な存在。ウォーホルはテーラードジャケットやシャツ、ネクタイの上から機能的なジャケットを重ねていた。さらに当時のマルチポッシュには、袖を取り外せる仕様も存在した。機能服を本来の文脈から解放し、自分の装いの中へ持ち込む。その発想自体には、すでに長い時間の積み重ねがある。
鈴木大器の服づくり
では、今この服をつくる意味はどこにあるのか。そこに鈴木大器氏の服づくりが重なってくる。ミリタリー、ワーク、アウトドア、トラッド。それぞれ異なる背景を持つ服の構造を理解したうえで、要素を切り離し、新しい関係の中で結び直す。MODMNTでは、その発想を着こなしだけではなく、一着の設計そのものへ持ち込んでいる。
惹かれるのも、まさにこの部分だ。昔の服を知っているからこそ、単なる復刻では物足りない。だからといって、元の服が持っていた意味を消してしまえば、それも面白くない。写真家の仕事着という明確な出発点を残しながら、そこへ異なる服の構造を組み込み、着る人自身が形を変えられるところまで設計している。その自由さに、鈴木大器氏らしい服づくりの面白さを感じる。
写真家の仕事が生んだポケット
フォトグラファージャケットの原点にあるのは、撮影に必要な道具を身体に分散して携帯するという発想だ。交換レンズやフィルム、露出計などをバッグから探すのではなく、必要なものを決まった位置に収め、撮影の動作を妨げずに取り出す。その必要から、ポケットの大きさと配置が決められてきた。
このジャケットでも、前身頃には大小さまざまなポケットが配置されている。特に胸元の小さなポケットは35mmフィルムを収納するためのもの。大きな収納へまとめて放り込むのではなく、小さな道具をひとつずつ分けて携帯する。写真家の仕事から生まれた要求が、そのまま服の形として残っている。
小さなポケットと大きなポケット、フラップとファスナー。異なる構造が前身頃に幾重にも重なることで、平面的な生地の上に細かな凹凸と横方向の線が走る。一般的な四つポケットのジャケットとは明らかに違う。機能を積み重ねた結果として、この複雑で緻密な表情が生まれている。
さらに背面には、三脚を収納するための大きなポケットを配置する。前身頃では細かく区切られていた収納が、背中では大きな面を使った立体へ変わる。正面と背面でポケットのスケールそのものが違い、それによって前から見た時と後ろから見た時の輪郭まで変化する。
ここがまた面白い。MODMNTは、これらを現在も必ず撮影機材を収納するための装備として考えているわけではない。ブランド自身も、三脚用ポケットを実際に使うこと以上に、デザインの一部として捉えている。フィルムを入れるための小さなポケットも、三脚を収めるための大きなポケットも、本来の役割から離れた瞬間に造形へ変わる。それでも形を適当に変えず、仕事の必要から生まれた構造そのものは残している。そこがいい。
そしてフードには、米軍のフィールドジャケット用フードを思わせる深さのある形状と、首元を覆うタブを採用する。頭を包む立体的なフードと首元まで続く構造が、多数のポケットを備えた身頃に負けない輪郭をつくる。写真家の仕事着を出発点にしながら、そこへミリタリーウェアの造形が重なることで、ひとつの時代や用途だけでは括れないジャケットになっている。
VENTONEという素材
素材には、コットン62%、ポリエステル38%のVENTONE後染めオックスを使用する。経糸には60番双糸のコットン、緯糸にはポリエステルを用い、異なる素材を交織して超高密度に織り上げた生地だ。
60番双糸とは、細い60番手の糸を二本撚り合わせたもの。細番手の糸が持つ繊細さを残しながら、双糸として織物を構成することで生地の骨格をつくる。さらに経緯で異なる素材を使い、それぞれを染め分けることで、単色では出しにくい複雑な色合いを生み出している。
このジャケットでVENTONEを使う意味は大きいと思う。これだけポケット、フラップ、ファスナー、着脱部分が重なれば、生地そのものが服の構造を受け止めなければならない。高密度に織られた生地がそれぞれのパーツを支えることで、小さな収納が密集する前身頃にも、大きなポケットを持つ背面にも、構造の違いがはっきりと現れる。
さらに生地には耐久撥水、ピーチ、BIO、SOFT加工を施している。ピーチ加工によって表面にはごく細かな毛羽が生まれ、滑らかな肌触りへ仕上げている。超高密度に織った生地の骨格を保ちながら、硬さだけを前に出さない。加えて透湿性、耐久撥水、UVカットといった機能も備える。
これだけ複雑な構造を持つジャケットでは、生地が柔らかすぎればディテールの輪郭が曖昧になる。反対に硬さばかりが前へ出れば、服全体の印象まで重くなる。VENTONEの高密度な織りと、ピーチ加工やSOFT加工による柔らかな表面感。その両方があることで、無骨なディテールを持ちながら、質感には穏やかさが生まれる。生地の機能だけでなく、見た目の印象まで考えられた素材選びだ。
一着から四つの服へ
そして、このPHOTOGRAPHER JKTの核心が着脱構造だ。袖と身頃下部をそれぞれファスナーで取り外すことで、フルレングスのジャケット、ロングベスト、ショートジャケット、ショートベストという四通りの形をつくることができる。
袖を外せる服そのものは珍しくない。だが、この服は裾まで外す。身幅や肩周りを残したまま着丈だけを大きく変えることで、身体に対する服の比率そのものが変わる。フルレングスでは縦方向へ広がっていたポケットの構成が、裾を外した瞬間、短い身頃へ凝縮される。同じポケットなのに、横方向への広がりが強く見え始める。単に短くなっただけではない。服の輪郭そのものが変わる。
さらに袖と裾の両方を外す。すると現れるのが、フィッシングベストを思わせる姿だ。
写真家と釣り人。
撮影道具を携帯するためのジャケットだったものが、釣り道具を身体に収めるためのベストにも通じる造形へ変わる。仕事は違う。それでも、両手を自由にしながら必要な道具を身体の近くへ置き、必要な瞬間に取り出すという目的は共通している。その共通点が、袖と裾を外すという単純な操作によって目の前に現れる。
僕はここに、この服の一番面白いところがあると思う。フォトグラファージャケットの中に、最初から別の仕事着の造形まで潜んでいる。それを説明だけで終わらせず、本当にパーツを外すことで見せてしまう。
反対に袖だけを外せば、着丈を残した縦長のロングベストになる。前身頃の大小のポケットや背面の大きな収納が、袖のない輪郭の中でより際立つ。裾だけを外せば、ポケットの構成を短い着丈へ凝縮したショートジャケットになる。同じ身幅と肩周りを持ちながら、残すパーツによって服の比率も印象も変わる。ブランドが意識する、ゆるすぎないリラックス感を土台にしながら、最後の輪郭を決めるところへ着る側が参加できる。
何より優れているのは、パーツを外した姿が、ジャケットから何かを欠落させただけに見えないことだ。袖をなくせばベストになり、裾をなくせばショートジャケットになり、両方をなくせばまた別の服になる。どの形にしても、きちんと一着の服として成立している。
復刻では終わらない
過去のマルチポッシュにも袖を取り外せる仕様が存在した。それを考えれば、MODMNTがゼロから着脱という仕組みを発明したわけではない。むしろ面白いのは、そこから先だ。かつての機能的な発想を受け継ぎながら、袖だけでなく丈まで変化させ、ジャケットとベスト、ロングとショートという異なる輪郭を一着の中へ入れている。
着脱を便利なギミックで終わらせず、異なる服の造形を行き来するための手段へ変えている。過去の服が持っていた機能を理解し、それを今のファッションとして再構成する。鈴木大器氏の服づくりに通じる発想が、このジャケットでは目に見える構造として現れている。
だから、この服を単純な多機能ジャケットだとは思っていない。ポケットが多い。袖が外れる。裾が外れる。VENTONEを使っている。ひとつずつ見れば、それはすべて仕様の説明で終わる。しかし、それらが一着の中でつながった時に見えてくるものはもっと大きい。写真家の仕事着から始まり、ミリタリーのフードが重なり、パーツを外せばフィッシングベストにも通じる造形が現れる。異なる服の歴史と機能が、一着の中を行き来している。
MODMNT PHOTOGRAPHER JKT
このジャケットをLAMPAで紹介したいと思ったのは、単に四通りの形へ変化するからではありません。仕事着として生まれた構造を理解したうえで、今の服としてここまで自由に組み替えてしまう。そこに鈴木大器氏の服づくりの面白さを強く感じます。古い服を知っているからこそ発見があり、実際に着ることで自分なりの形を見つけていける。一着の中に四つの完成形を持ちながら、どれを選ぶかは着る人自身に委ねられている。このPHOTOGRAPHER JKTは、まさにLAMPAがセレクトしたい一着です。
