2026/07/11 00:28

A Moment of the City / 05
都内在住、53歳。
町セレクトショップオーナー。
最近、高円寺に洒落たスタンドコーヒーの店が増えた。
以前は、ちょっとコーヒーでも飲んで休憩しようと思ったら、駅前の大手コーヒー店まで戻るしかなかった。
うちの店でも、買い物途中のお客さんから、そんな話をよく聞いたものだ。
店を何軒か回って、気になる服があって、ちょっと休憩して考えようと駅前まで戻る。
コーヒーを飲みながら、
「あっちも良かったな」
「でも、こっちも気になるな」
なんて考えているうちに、だんだん面倒になって、そのまま帰ってしまった。
店をやっている側からすると笑えない話だが、まあ、気持ちは分かる。
だが今は違う。
店の周りにも、気軽にコーヒーを飲める場所がずいぶん増えた。
これは本当に助かる。
買い物の途中で少し休んで、また街を歩く。
そんなことが、ようやく高円寺でも自然にできるようになった。
その中に、一軒、前から気になっていた店があり、ある日、ふらっと入ってみた。

若い店員さんがいて、店内には洒落た海外のファッション誌なんかも置いてある。

高円寺といえば、ビールケースをひっくり返してテーブルにしたような焼き鳥屋や、昭和の空気がそのまま残ったローカルな大衆店。
もちろん、自分はそういう店が大好きで、店をこの町でやろうと思った理由は、その雰囲気が好きだったからだ。
ただ最近は、そこに新しい感性を持った若い人たちの店が少しずつ混ざり始めた。
昔からある昭和の高円寺と、今の若い人たちが持ち込む新しい空気。
どちらかが消えるのではなく、同じ街の中に普通に存在している。
この感じが、なんだか新鮮だ。
高円寺も変わったな。
そんなことを思いながら、店員さんおすすめのホットコーヒーを飲んだ。
飲み終えて、自分の店へ戻ろうとする。
そのコーヒーのせいなのか。
それとも、高円寺では普段あまり味わわない新しい空気に、少し刺激を受けたせいなのか。
少し熱を感じ、暑くなった。
そこで、着ていたロンTの袖を外す。
そう。
このMODMNT DETACHABLE L/S TEEは、袖が取れる。

もちろん、着心地もいい。
サイズ感もいい。
ただ、自分がこの服を買った理由は、それだけじゃない。
正直に言えば、この少しオーバースペックぎりぎりな感じに惹かれた。
袖を取り外せるようにするために、わざわざボタンを付ける。
その分、手間もかかる。
反ブレのリスクもある。
普通に考えれば、コストも上がる。
そこまでして、本当にやるのか。
たぶん、多くの人はやらない。
でも、MODMNTはやった。
効率や採算を考えれば、どこかで削られてもおかしくないデザインを、そのまま製品にしてしまった。
その心意気に惹かれた。
もう何十年もアパレルの仕事をしている。
服なんて、嫌というほど見てきた。
だから、ちょっとやそっとのことではテンションは上がらない。
それが、こいつには単純に上がった。
面白い。
着てみたい。
久しぶりに、そう思った。
袖を外していると、若い店員さんがこちらを見て言った。
「それ、なんていうブランドですか?」
一瞬、少しだけ間があった。
「ああ、MODMNTっていうブランドです」
そう答えながら、内心ちょっと嬉しかった。
53歳。
何十年も服を見てきて、最近はそう簡単にテンションも上がらない。
それでも、自分が面白いと思って選んだ服に、若い世代が反応する。
店を出ながら、ふと思った。
まだ、俺の感性も捨てたもんじゃないかな。
袖を外したロンTで、またいつもの店へ戻る。
仕事の続きが待っている。
高円寺の街も変わっていく。
自分も歳を取っていく。
でも、新しいものを面白いと思えるうちは、まだ大丈夫そうだ。
まだブレイクしていく、俺はB-BOYだ。
ーEND-
