2026/06/25 22:22



A Moment of the City / 03
偶然が呼び覚ます、自分のBPM
都内在住 53歳 町中華ならぬ町セレクトショップ店主。
アパレル業界には、年に何度か展示会がある。
ブランドが次のシーズンのコレクションを発表し、全国のセレクトショップのバイヤーが集まってオーダーを入れる。
中目黒や原宿を中心に開かれることが多いが、会場はたいてい駅から少し離れたギャラリーだ。
だから展示会の日は、普段あまり歩かない道を歩くことになる。
そしてそういう日に限って、思いがけない店と出会う。
今回もそうだった。
次のアポイントまで、少し時間があった。
見慣れない路地を折れたとき、雰囲気のいいレコード屋が目に入った。
「少しだけ。」
そんな気持ちで扉を開けた。
何年経っても、芯は変わらない。
一歩足を踏み入れた瞬間だった。
店内に流れる音。
棚に並ぶレコード。
その空気を吸った瞬間、昔の自分が一気によみがえった。
ジャケットやトップスはRALPH LAUREN、ARMANI、DKNY。
GUESSやBANANA REPUBLICのパンツ。
首にはCOBYのヘッドホンをぶら下げて、夢中でレコードを掘っていた30年前。
もう何十年もDJはやっていない。
レコードも、ずっと買っていなかった。
それなのに、あの頃の空気だけは一瞬で戻ってきた。
今日着ているのは、BRENA BLAZEのLAMPA別注シャツにMOUT RECON TAILORのSUMMERWEIGHT FIELD PANT。
あの頃はNYスタイルに憧れて、NYヒップホップのファッションをそのまま真似ていた。
でも今は違う。
誰かの真似じゃない、自分流のスタイルがある。
自分の中にある考え方も、価値観も、何ひとつ変わっていなかった。
自分の芯にあるもの。
それは今でも、HIPHOPだ。
まさか同じことを考えていた人がいた。
ふと顔を上げると、店の奥にオリジナルのTシャツが並んでいた。
何気なくプリントに目をやった瞬間、足が止まった。
“HOW MANY SHOPS MUST GET DISSED?”
BLACK MOONの名曲、
“HOW MANY MC’S MUST GET DISSED?”
そのサンプリングだった。
このフレーズは、自分もオリジナルTシャツに使おうと、ずっと温めていた言葉だった。
まさか先を越されるとは。
それも、こんな路地の奥のレコード屋で。
悔しいというより、純粋に嬉しかった。
同じ場所に辿り着いた人間が、この街のどこかにいる。
興奮のボルテージは、一気にMAXまで上がった。
気づけばレコードを10枚抱えて、店を出ていた。
街を歩く理由。
レコードは、決して軽い荷物じゃない。
しかも、このあとも展示会は何件も残っている。
普通に考えたら、買うタイミングじゃない。
でも、不思議と後悔はなかった。
レコードを抱えながら歩く街は、少しだけ違って見えた。
……でも、レコード10枚は少し張り切り過ぎた。
やっぱり重い。
まぁ、こんな日があってもいいよな。
そう思いながら、次の展示会へ向かった。
ーEND=
